イザーク・ジュール25歳
アスラン・ザラ・ジュール24歳
戦争の停止から数年を迎え、ようやく穏やかさを見せ始めたプラント
人工的に創られたようには思えないようなソコに
イザークとアスラン…そして二人の間に出来た双子の子供が住んでいた

何故、男同士である二人の間に子供が生まれたのかは
追々、説明するとしよう

穏やかになったプラントでは軍人もようやく安息の日を過ごしていた
勿論、イザークも例外ではなく一般の兵士に比べたらまだ忙しい日を過ごしていたが
戦争中に比べたら、今の忙しさなど苦でもないのだ
イザークにとってアスランの事が一番、気にかかる所であったが
戦争も終わり、例え戦争の終らせ方に納得できなくとも
戦争を止めた一人としてアスランもプラントの住民として再び認められ、正式にプラントの住人となったのだが
それでも、やはり前議長の息子としてマスコミの注目を浴びてしまう

最初は耐えていたアスランであったが、子供が出来たと分かってからほぼ同時に
今、住んでいる農業プラントに内密で引っ越してきたのだ
それでもアスランの名も顔も知られている為、完全な安息ではないかもしれないが
それでもプラントの中心部にいるよりはマシなのかもしれない

事実、アスランが農業プラントに引っ越してきてからは 疲れを見せていた顔も今では頻繁に笑顔も見せるようになり
二人の間に生まれた子供も含め、四人は農業プラントで静かに暮らしていた

だが、イザークが軍人を辞める事は出来ず
この農業プラントから軍事施設までの通勤は決して楽なものではないのだが
それでもアスランをプラントの中心部に置いておくよりはマシだと言う

そんなイザークも今日は休日
家族サービスだと、先程まで子供たちを構っていたのだが
二人の子供はまだ幼稚園である
疲れてしまったのか大きな窓辺の所でスヤスヤと穏やかな寝息を立てていた

イザークもアスランも小さい頃に親に構ってもらった記憶など数えてしまえる程しかなく
そんな思いを自分達の子供にはさせたくないのだろう
アスランも今では専業主夫を勤め
イザークも遅くても家には必ず帰っており、休日には子供達を構っている

「イザーク、お疲れ様」

「………仕事より大変だ」

「嬉しいんだろ、父親と遊べて
ほら、コーヒー」

「あぁ…」

「なんか不思議な気持ちだ
こんなに穏やかな時間を過ごせるなんて思ってもみなかったから」

ソファでグッタリとしているイザークを横目で見ながらアスランは幸せそうな笑みを浮かべ
隣に座るイザークの肩に自分の頭を乗せ、窓辺で寝息を立てる子供達を見つめていた

こんな穏やかな時間が訪れるなど昔の自分では考えられない事だっただろう
ただ命令のまま動き、戦い、殺した
今でもその罪は償えてはいないかもしれないが
だが、今の幸せを壊したくないと、そう思うのだ

そんなアスランの様子を見たイザークは投げ出していた腕をアスランの肩に回し
自分も随分と丸くなったものだと苦笑を浮かべながらフ…と昔の事を思い出していた

それは、そう評議委員会のパーティーがアスランとの出会いであった
二人が初めて出会った場所
当のアスランはアカデミーで再会するまでは綺麗に忘れてはいたが……






























































『Place to stay〜出会い〜』






























































それは何でもない年に数回、行なわれている評議委員が集まるパーティーであった
その内容は、政治の事や駆け引きの様な堅苦しいものでは無く
簡単に例えるならば井戸端会議のように他愛も無いような会話ばかりが飛び交っていた

―先日、息子が、塾で賞を頂きましたの。―

―家の子も少しは落ち着きが出るといいのだが…。―

―ペットが欲しいと言うのだが、何か初心者でも飼いやすいのを知ってますかな…?―

それは家族の褒め言葉であったり
子供を持つ者の愚痴であったり
他愛ない相談であったり
本当に政治家だけのパーティーなのか?と疑問をもってしまう程に
今、行なわれているパーティーは穏やかなものであった

それは普段の忙しい仕事の疲れを取るかのように
誰もがリラックスしていた
それを提案したのは、このパーティーの主催者であるシーゲル・クラインとパトリック・ザラである
それは難しい問題を抱え、それを仕事としている仲間への労いのパーティーでもあるのかもしれない

情勢は相変わらず
地球連合を始めとするナチュラルの無茶な要求
受け入れられないプラントの願い
一つ、何かを間違えてしまえば保たれている
細い糸のような均衡が壊れ
世界はあっと言う間に崩壊への道へと足を進めてしまうのだろう

そんな気の緩みを許されない仕事をしている仲間への僅かではあるが、労いの場なのだ

そんな場所に家族を同伴させている議員は珍しくは無く
パトリック・ザラも妻のレノアとアスランを同伴させたいた
パトリックの服装は相変わらずの議員服であったが
レノアは清楚な白の女性物のスーツで身を包み
息子のアスランにも、オシャレな格好をさせている

藍色のフワフワとした髪の毛に
翡翠の大きな瞳
子供特有の柔らかそうな肌に女の子用とも男の子用とも思える
可愛らしい洋服を纏い
二人の間で幸せそうに微笑んでいる姿は、正に理想の家族のように思えた

人見知りが激しいアスランの為に、壁に近い位置で談笑をしていたザラ一家であったのだが
パトリックの目線の先にはプラチナの髪を持つ
女性が存在していおり「そういえば、忘れていたな」
と、小さく呟くとプラチナの髪を持つ女性に声を掛け
手招きしている

「エザリア!!」

「パトリック!!探していたのだぞ
今日はパトリックの自慢の家族を紹介して貰えるという事で楽しみにしていたのだ
それが、見当たらないから逃げたと思っていた」

「あぁ、すまないな
息子は人見知りが激しいから、あまり人込みの中へ行きたくないようなのでな」

「まぁ、来ていたのであれば良い
そちらが、パトリックご自慢の奥方かな?」

「いつも主人が、お世話になっております
妻のレノア・ザラです
そして、この子は…ご挨拶は?」

「は、初めまして
息子のアスラン・ザラ。です
お会い出来た事を光栄に思います」

「私も貴女方に会う事が出来て嬉しく思います
仕事場にまで家族の写真を飾っているものだから
どれだけ、素晴らしいのかと思っていたが
パトリックの話以上に素晴らしい方々だ

私はエザリア・ジュール
パトリックの同僚だ
そして私にも息子がいるのだが…イザーク!!」

プラチナの髪の女性―エザリア―は息子であろう
名前を呼ぶと、エザリアとよく似た少年が
人込みを掻き分けながら、エザリアの元へとやってくるのが見えた
髪はエザリアと同じ美しいプラチナに
瞳は空のように澄んでいる空のようだ
一目、見ただけでは少女のような姿であるが
着ている服装で、男の子だというのが分かる

エザリアの趣味なのかシンプルではあるが
細やかな所に気が遣われており
上品であり、嫌味を感じさせない

「なんでしょうか?母上」

「前に会った事があるだろう
此方は私の同僚のパトリック・ザラ
そして、その奥方のレノアと御子のアスランだ
イザークも自己紹介をしなさい」

「お初にお目に掛かりますエザリア・ジュールの息子の
イザーク・ジュールと申します
以後、お見知りおきを」

「丁寧に有難う
アスランと同じくらいの歳かしら?」

「あぁ、アスランよりも一つ上だと聞いている」

「まぁ、そうなの?
アスランは人見知りする子だから仲良くして下さると嬉しいわ」

「勿論です。
宜しく、アスラ、ン……」

その時、初めてイザークはアスランを顔を見たのだが
雷でも落ちてきたのか?と思うような衝撃が
イザークの中を駆け巡っていた

それは今、思えば一目惚れ。というやつで
幼いながらにも『護ってやりたい』と思ってしまったのだ
その感情の名前を当時のイザークが理解していたかは不明であるが
確かに、それはイザークの『初恋』

「イザーク?」

己の母親に名を呼ばれ
再び、動き出した思考が捉えたのは
不安気に揺れる翡翠の瞳であった
イザークが急に黙り込んでしまった事で
自分とは仲良くしたくないのではないか?と思ったアスランは
レノアの後ろに隠れてしまい
服にギュっと顔を隠してしまった

それに慌てたイザークは
レノアの後ろに隠れてしまったアスランと顔を合わせるように
自分もレノアの後ろへと回り込むと
静かにアスランに向かって手を差し伸べた

「俺と一緒に庭にでも行かないか?
庭なら人も少ないし
今なら綺麗に華が咲き誇っているだろう」

「……………いい、の?」

「え?」

「一緒、に行ってもいいの…?」

「勿論だ
むしろ俺は一緒に行きたい」

「うん!!」

アスランはイザークの手を取ると
二人は親達に軽く庭に行く。と告げると
足早に、その場を後にした

「うーん……」

「エザリア、どうかしたのか?」

「パトリック、私の息子に春が来たやもしれん」

「あらあら」

「なっ!!アスランは確かに、そこら変の女の子よりも可憐だが
ちゃんとした男の子だぞ」

「まぁ、細かい事を気にするな」

「そうですわ、貴方
微笑ましいではありませんか」

「アスランは嫁には出さんぞ!!」

「先ず、お前の方がアスランの性別を認識すべきだ…」











































イザークとアスランの二人がやってきたのは
華が見事に咲き誇っている庭であった
そこには定番の薔薇や珍しい華もあり
ただ、適当に植えてあるだけでは無く
それぞれの花達がお互いを引き立たせ
見る者を魅了し、癒しを与える

アスランも例に漏れず
普段は『美』というものに無頓着ではあるが
この素晴らしい庭には惹かれるものがあるのか
頬を薄く紅に染め、自然に笑みが浮かべられていた

「すごい…」

「クライン家、ご自慢の庭らしい」

「そうなの?」

「シーゲル・クラインの愛娘が自ら世話をし
ここまでのものにした。と聞いていたのだが
話以上の素晴らしさだな」

「すごいな
美術とか苦手だけど、この庭は素晴らしいと思うよ…」

話をしながらも華に視線を奪われているアスランであるが
イザークは華に視線を向けながらも時折、アスランの方へと視線を向けていた
心の中で華よりも…と思うのだが
そんなくさい台詞を言えるような性格ではない
という事は分かっていた

イザークはアスランに気付かれないよう小さく溜め息を吐くが
今は、この時間を堪能しよう。と幼いながらも
大人びた考えで、アスランと同じように華を見つめた
会話らしい会話は、ほぼ無に等しかったが
二人は、それを気にする事は無く
むしろ、その無言の時間が心地良いと思えた

暫らくすると庭で華を見ている二人に
クライン家のメイドがジュースとお菓子を持って現れ
話を聞けば二人の両親が寄こしたものらしい

花々が咲き誇る庭で
庭に置かれている机と椅子に身を置き
楽しそうにしている二人は
童話に出てくるように絵になり
その姿は、まるで小さな王子様とお姫様といった感じだろうか

「あら、可愛らしいカップルですこと」

「将来が楽しみな逸材ですな」

「あんな可愛らしいカップルを引き離さないように
私たちの世代で、この情勢を何とかしなくてはいけませんね」

「はは。新たな目標が出来ましたな」

部屋の中で雑談をしていた筈の数名の大人達も
二人を見ては微笑ましく見守るのだが
話している内容は当人達にも聞こえており
イザークは頬を少し赤らめ
アスランは嬉しそうに笑っている

「ア、アスラン…今のは」

「イザークと僕カップルだって
そんなに仲良しに見えるのかな?」

「え…?僕?」

「うん」

アスランの一人称に少しだけ疑問をもったイザークであるが
最近は男勝りの女の子もいると聞いた事がある
アスランも、その部類なのかもしれない…
と、優秀な頭脳は数秒で結論を出すのだが
アスランの放つ言葉でイザークが出した結論は
ガラガラと音を立てて崩れ去る

「僕もイザークも男同士だから
カップルじゃないのにね」

「………………は?」

「うん?」

「アスラン…失礼な事を聞くようだが…
男…なのか…?」

「うん。そうだよ」

先程とは違う意味合いで雷に打たれたような衝撃が
イザークを襲い、ガックリ…とうな垂れるのだが
アスランの方へ視線を向ければ
首を傾げ、うな垂れるイザークを心配そうに見つめている

その姿に、やはりドクン…。と胸は高鳴り
護ってやりたいと思う感情は消える事は無い
だが、子供ながらに男同士で恋なんてありえない。と
思っていたイザークは自分の感情に理解を苦しむのだ

「イザーク…どこか具合が悪い、の…?」

「いや、大丈夫だ
心配掛けてすまない」

「ううん。イザークが大丈夫ならいいよ」

ニッコリと笑う顔は庭に咲き誇る華のように愛らしく
やはりイザークの胸を高鳴らせた
「イザーク。アスラーン。そろそろ帰るわよ」

自分達を呼ぶ声に、もうそんな時間なのか…と
これ以上、混乱せずに済むと思い少しだけ安堵する思いと、それ以上に
もうアスランと離れなくちゃいけないのか。と寂しく思う心が
少しだけイザークの行動を鈍らせた
それはアスランも似たような事を思ってくれているのか
それとも、そうだと思い込みたいのかは不明だったのだが
アスランも心なしか足取りが重いように思える

「イザーク…また、会える…よね」

「勿論だ
このパーティーは年に何度も開催されるんだ
また此処にこれば会える」

言葉はアスランに言い聞かせる為のものであったが
自分自身にも、そう言い聞かせるようにイザークは言葉を続けた

「それに俺の母上とアスランの父上は同じ仕事をしているんだ
パーティー以外でも会える機会は、きっとある」

「うん」

手を取り合って、そう言いあっている二人は微笑ましく
待っているペトリック、レノア、エザリアも頬の筋肉を緩ませている
それと同時に可哀想だとも思っていたのだ
パトリックは既にこの時、レノアの希望で
レノアとアスランだけを月の中立コロニーへと
行かせる事を決定していたのだ

それは二人が再び会う機会が極端に減り
下手をすれば数年は会えない事を意味している
勿論、年に数回。特別な日はプラントに
来るのだろうが、この情勢が良くならなければ
何度もプラントと中立コロニーを行き来するのは危険が伴う

少しだけ寂しげな雰囲気が漂ってしまったが
それはエザリアの一言で見事に壊されてしまうのだ

「パトリック。将来、アスランを息子の嫁にする気は無いか?」

「あらあら、楽しそう」

「アスランは嫁に出さん!!」

「だが、どこぞに馬の骨とも分からんような奴よりは
私の息子の方が安心、安全だろうが」

「アスランは、このままでいてくれてればいい」

「だが子は親の知らん所で成長するからな…ほら
見てみろ。パトリック」

「あら」

レノアの楽しそうな声にエザリアの言うとおり
イザークとアスランの方へと視線を向ければ
そこにはパトリックが絶句してしまうような光景があった

アスランがイザークにキスをしていたのだ
それは頬では無く唇に

「ア、アスラ…」

「うん?父上がキスは親愛の証だって言って
お仕事に行く時は必ず僕と母上にしていくよ?」

アスランに深い意味は無かったのだろうが
イザークにしてみれば初恋の相手と
家族以外ではファーストキスであった
だが、先程からアスランに振り回されているような感覚に陥っている
イザークは微かな負けず嫌いの心が顔を覗かせ
アスランにキスの礼を返すように手の甲へとキスをした
「アスラン…キスをする箇所によっても意味があるそうだ
手の甲は尊敬
掌はお願い
頬は親愛の情
額は挨拶
唇は愛情
瞼は憧憬だそうだ

だから、これからは手の甲か頬か額にするといい」

「…イザークにも?」

「アスランの好きにすればいい」

「うん」

その会話を最後に二人は数年、会う機会さえ訪れず
ようやく会えたのは情勢は悪化し
レノアは『血のバレンタイン』にて亡くなり
イザークとアスランが軍の養成学校へと入学した時であった













































「あ、あれアスラン・ザラだ」

そう言葉に出したのはイザークの幼馴染であり
仲間となるディアッカ・エルスマンであった

イザークがディアッカが向けている視線を辿ると
数年前に一度、会ったのみで
それ以来、会う事が無かった存在―アスラン・ザラ―がいた

一度しか会わなかった為か
朧気にしか昔のアスランを思い出せないが
イザークは眉に皺を寄せ、アスランを凝視してしまう
そこで脳裏に過ぎるのは一つの疑問

―アイツはあんなにも……―

だが途中まで出た疑問は一瞬で答えに辿り着いてしまう
イザークが記憶していたアスランとは何かが決定的に違う何か
その『何か』は恐らく血のバレンタインの所為なのだろう
イザークが記憶していたアスランは
人見知りをしていたが言葉を交わせば華のように笑い
柔らかい雰囲気で、どこかボケていた

だが、今イザークの瞳が捉えるアスランは
まるで別人のように見えてしまう
言葉を交わせば、また違うのかもしれないが
背筋がピンと伸び
真っ直ぐと先を捉える瞳
規則正しく奏でられる足音
周りの人間を、やんわりと拒絶しているかのような雰囲気
その表情に笑顔は無く
いやみたらしい程の優等生顔

「へぇーあれがザラ家の一人息子で
クライン家の一人娘で平和の歌姫の婚約者。ね
見た目だけじゃイザークの成績を抜くような奴には見えないよな」

「やかましい。これから挽回すればいいだけの話だ」

ディアッカの言葉を流しながら
イザークは、ようやくアスランから視線を外し
前を見据え、歩を進めた




イザークの記憶に残っているのは
母親の後ろで隠れながら恥ずかしそうに此方を伺い
言葉を交わせば華のように綺麗に笑う

そんな人間を変えてしまったのは
アスランの母親も犠牲となってしまったと聞い

『血のバレンタイン』

恐らくはアスラン以外にもいるのだろう
幸せを一瞬で壊され、散って逝く命にただ無力な己
そんな己を嫌悪し、抑えきれない憎悪
これ以上、犠牲を出したくないという願い
せめて残された者だけでも護りたいという正義感

そんな思いを胸に宿し軍に志願した者は少なくない筈だ
イザークは一瞬だけアスランに視線を写し瞳を閉じた





















この時の二人に今から起こる惨劇も
出来事も、未来も、まるで予想出来なかったモノであった






































気付けば、うとうと…としかけているアスランに苦笑を漏らし
イザークはポツリと呟く

「だが…アカデミーで初めて交わした言葉が
『久しぶりだなアスラン』に対してお前は
『え…?えっと…すみません。
以前、何処かで、お会いしましたか?』だったな」

イザークの肩に頭を預けていたアスランであったが
勢い良く頭を上げ、少しだけバツの悪そうな表情で
視線を泳がせていた

「いい加減…忘れろよ
それに悪かった。って何度も言ってるだろ?」

「あれは流石の俺でも落ち込んだものだ
まさか覚えていないとは思ってもみなかったからな」

「………うっ」

イザークと付き合いだしてから何度も
からかわれ続けているネタに
アスランは「意外と粘着質なんだよな…」と心の中で呟くのだが
それを声に出してしまえば、この後の惨事を思えば
心の中で呟いても言葉にせず、飲み込んでしまうのが得策だ

アスランは、ほんのりと暖かい温もりを感じたまま
瞳を閉じ、グッとイザークの服の裾を強く握る
一時期、人の肌の温もりが怖いと感じていたのだが
それと同時に自分に安堵を与えてくれるのも
また人の温もりである事を教えてくれたのはイザークであった







続く…