※警告※

ドラッグ第2なのですがこれはまだ種デスの世界ではありません
停戦後の設定で種デスが始まる前の物語だと思っていただければよいのではないかと・・・
後、この2は前編、後編っぽくなっておりまして後編が終った後で種デスの世界へ入りたいと思います
なので、あの続きからすぐに種デスの世界がいいとおっしゃられる方はこれを見ず、続きを待っていてください;

ギル様がいつ議長になったのか時間設定が曖昧なので今回は名前は出ていませんがそれらしい人物が本当にチラっと出てきます
イザークの屋敷でアスランは同棲・・・療養中だとでも思って下さい

では最後に警告いたします
この続きではクライン派の方にとても優しくないものとなっております
もちろんキラ好き様にも優しくないかもしれません
なのでクライン派、キラ好き様は見ない事をおススメいたします

この警告を無視されて苦情を言われましても楓さんは無反応だと思いますので自分が悲しくなるだけですよ?

ではでは、色々と書いてしまってスミマセンでした;
↑の事なんて全然気にしないわ♪
と言われる方で続きを待っていてくださった方、お待たせいたしました!!
それでは今回も疎い文章ながらも頑張って書かせていただきましたのでお楽しみ下さい!!

































































例え何年も薬から離れていてもフラッシュバック―再熱現象―というものがある

何ヶ月、何年とやめていても少量の再使用、不眠、ストレスなどがきっかけで乱用時と同様の精神障害が現れることがあるのだ

それにより再び薬を乱用してしまう者
鬱状態になってしまう者
自殺未遂、自殺をしてしまう者さえもいる

薬という呪縛から抜け出すと事はそれだけ容易くは無い、と言うことなのだろう
一度嵌ってしまえば抜け出せない『悪魔の薬』
一時の快楽との引き換えの代償
それはあまりにも酷いものだ

彼―アスラン・ザラ―もまた再び苦しみの渦の中にいた


















『ドラッグ〜U〜』



















戦争も停戦を迎え数ヶ月が経つがアスランの立場は微妙なものだ
パトリックの息子
だがプラントを守った英雄
使い道は色々とあるだろう

評議員が今後のアスランの事を話す
それは全ての者がクライン派だ
ザラ派の者はほとんど拘束されてしまっているのだろう

ある一人は答える
「ザラは危険だ」と
とある者も答える
「だが使い道は色々とある」
それに賛同する者
「ザラを支持する市民もまだいるもの確かだ」
それを反対する者
「しかし、そいつらと再び手を組むかもしれん」

殺すか利用するか

それはどちらもアスランにとっては良い道ではない
結論の付かないクライン派の評議委員達にイザークは言う

「奴・・・アスラン・ザラの今の精神状態は今だ不安定です 私はアスランは今は治療に専念するべきだと考えますが?」

アスランを生かそうと思う委員達は黙る
しかし
アスランを殺すべきだと言う奴はだったら今、殺せばいいとても言いたそうだ

吐き気がする
イザークは言葉にも表情にも出さないがそう思っていた

どちらにしてもアスランに居場所、自由はないのだ
これがクライン派?
コーディネーターとナチュラルの共存を望む奴ら
しかしその為だったらアスラン一人の人生などどうでもいいと言うのか?
これが戦争を止めた奴ら
所詮、己の事しか考えていないのはザラもクラインも一緒だ

根底にある気持ちは一緒
ただどちらが何を優先させているか?
その違いだけであろう

ザラは市民―ナチュラルを許せない、恐怖している者―の支え希望だったであろう
クラインは政治―傷をただ哀れむ者―の賛同を受けたであろう

市民を優先させた
だからこそザラは最後まで支持を受けクラインは途中から支持されなくなってしまった

いや、その言い方は間違っているのかもしれない
クライン派はクライン派で市民の事も考えていたであろう
しかしザラ程の市民の支持は得られなかった

それもそうかもしれない
ナチュラルとの共存
それはコーディネーターには語りかけたがナチュラルに語りかけた様子は無い
影では理解のあるナチュラルと話を進めていた。と後から知ったがそれを知らぬ市民がいて影だけで話だけが進む
それだけでは共存などただの夢物語だ
アイリーン・カナーバはあの時
「我等、評議委員はそんなのを認めていない」とシーゲルに言っていたが、なら己の行動はどうなのだろうか?
ザラ派には何も言わず己等だけでナチュラルと話を進めていた
行動は違えどやっている事は一緒ではないのか?
他の者の意見を聞かず勝手に行動する
己達の行動を棚にあげザラ派の行動を制限する
これがクライン派、か・・・

新しく議長になった者はなにも言わずただ周りの議員達を眺めているようだ
意見を聞いているのかそれとも興味がないのか
その真意はわからないが静かに耳を傾け瞳を閉じていたのだ






























あのくだらない、吐き気のする会議も終わりイザークは早々にその場所を後にし車を走らせていた
目的の場所は決まっている
どうしようもない吐き気は恐らく不安から
奴が殺されてしまうかもしれない
奴が利用されて少しの自由も与えてはもらえないかもしれない
それは捕虜と同じような扱いだ

道は違えどプラントの為に戦った者を何故、そのような扱いが出来るのかイザークにはソレが理解出来なかった

キッという音を立てとある屋敷の前で車を止めるとその扉からアスランの幼馴染―キラ―が浮かない顔でコチラに歩いてくる
イザークの存在に気付いていないのかその瞳はイザークを見てはいない
キラはそのまま歩きつづけるとようやくイザークの存在に気付いたのかあからさまに嫌な顔をし無言でその隣を通り過ぎるとリニアに乗り去っていく

そしてイザークが気にするのは無言で去っていったアスランの幼馴染―キラ―の存在ではない
むしろその幼馴染―キラ―が会いにきた人物の状態だ

本人でも気付かない内にイザークは早足でその場を後にし屋敷の中へ入るとここにいる彼―アスラン・ザラ―の姿を探す
あの会議の後だからだろうか?
不安だけが彼の脳裏に走り拭えない
それは最近のアスランを見ていれば当然なのかもしれないのだが


あの戦争が停戦となりイザークはアスランをこの屋敷に来させ専門の医者を呼びアスランを治療させた
いや、その治療はあれから数ヶ月、もうすぐで一年経とうとしている現在でも治療中だ

ドラッグとはソレほどまでに恐ろしく纏わり付くものなのだ
当初のアスランは幻聴、幻覚等の禁断症状に陥りパニック状態になってしまう事もあったがその頃のアスランに比べたら表情も穏かになりつつあり
表情も柔らかくなっていた
それを守りたい
もうあんな事をさせるのもあんな風にさせてしまうのもゴメンだ、とイザークは思っていた
それなのにアスランの元に現れたキラ―
不安にならないといえば嘘になってしまう

イザークにとってキラはいい存在だとは言えない
アスランはキラの所為でドラッグに手を出してしまったと言っても決してそれは間違いではないだろう
キラのした事は戦争だったのだから仕方が無い、そう言ってしまえばそれまでなのかもしれないがそれでもアスランにとっては掛け替えの無い戦友が親友だと思っていたキラに殺され
そしてまた、アスランもキラを殺そうとし、告げられた言葉達に精神が壊れそうになり手を出してしまったのだ
あの悪魔の薬に

「アスラン!!」

「・・・イザーク?」

アスランを見つけたその場所はアスランも気に入っている日当たりの良い部屋だ
そこに並べられているのは二つのコーヒーカップ
一つはアスランのものだろう
そしてもう一つは・・・

イザークは軽く舌打ちをすると
こちらの様子を伺っているアスランの座っている傍に来るとそのまま腕の中へアスランを閉じ込め溜め込んでいたものを吐き出すようにイザークは安堵ともとれる溜め息を吐く

突然の温もりにアスランは戸惑いながらもイザークの背へと手を回しその温もりを確かめた
―まだ此処にいる―
―此処に、この場所に確かに存在している―

その想いが互いの支えだろう













眩しい日差しで目が覚めればもうイザークはそこにはいない
軍はまだ忙しい時期なのだから仕方が無い
しかもイザーク自身もまた微妙な立場にいるのもアスランは分かっていた

母親はザラ派、しかもアスランの父親―パトリック―の右腕のような役割をしていたのだから
そしてその息子であるイザークもまたパトリックの言う世界を信じその為に戦っていた

寂しくない・・・と言えば恐らく嘘になってしまうのだろう
しかしそれを口に出すことはアスランの想いが許しはしなかったのだ
薬物使用で迷惑をかけてしまったのだ
これ以上の我儘を言うのは許さなかったし、なにより怖かったのだ

昨日、突然訪れた幼馴染
嬉しい反面どんな風に接すればいいのか分からなかった

薬物を使用していた事をアスランが倒れるまでキラは知らなかったのだから
隠し事をしていた
たったそれだけの理由だがそれでも気まずくなってしまうものだろう

だがそれ以上に感じたのはとても怖い、嫌な予感
アスランは震えそうになる身体を抑えながらキラを部屋まで案内し話を聞いた

今、思えばその予感はあたってたのだろう
そう思うとアスランは痛々しい笑みを浮かべ人工的なプラントの空を見上げた

思い出されるのはイザークとその昨日、幼馴染―キラ―と交わした言葉達
他愛の無い会話の途中で突然出される言葉にアスランの表情は凍り付き無意識に身体が震えていた

『・・・―アスラン、突然なんだけどさ、オーブに来ない?』

『・・・・・キラ?』

『だって此処はまだアスランにとって安全とは言い切れない場所でしょ?』

『だが・・・』

『そりゃオーブだってまだ安全とは言い切れないかもしれないし復興中だけど・・・僕達がいるし大丈夫だよ』

『・・・・・・』

『もちろん返事は今すぐじゃなくてもいいんだ。
・・・でも、イザークさんだって暇じゃないしこれから大変でしょ?』

『・・・・・―っ』

『アスランの症状も大分良くなったみたいだしもう大丈夫じゃない?』

『キ、ラ・・・俺、は・・・・・』

そこからの事をアスランはよく覚えてはいなかった
いや、覚えていないというよりも思考が他の方向へ気を取られ話を聞いていなかった、と言ったほうがいいのかもしれない

キラの言葉から出てくる言葉
それは遠まわしなのかアスランの思い過ごしなのか
アスランがいつまででも此処にいればイザークに迷惑が掛かる
と聞こえてしまうのだ

もちろんイザークはそんな事を思っているわけでも嘘でも口にそんな事を出したことは無い

キラはただアスランの安全を考えただけなのかもしれないが
ドラッグの危険認知度が甘かったのだ
いや、甘いというよりもアスランなら大丈夫。と思ってしまっているのかもしれない
その思い込みは何よりもアスランを傷付け追い詰める

『・・・・―じゃあ、さっきのオーブへって話し考えといてね』

『・・・・・・』

アスランの瞳には涙が溜まる
どうしようもない不安から
アスランを此処まで支えてくれていたのはイザークだ
そのイザークに迷惑がられているとしたら
イザークにとってただの邪魔な存在なのだとしたら・・・

考えれば考える程にパニックになりそうで吐き気が込み上げてくる

「・・・・ぅっ」

どうしたらいい?
どうすればいい?
こんな愚かな自分
こんな醜い自分
此処にいてもいいのだろうか?

考えれば考える程に昔―ドラッグを使っていたとき―の思考と同じになってしまう

どうしたらいい?
どうすればいい?
ドウスレバ・・・!!

息も荒くなり眩暈がして頭痛もしてくる感覚にアスランの思考はパニック寸前だ
しかしその思考を止めたのは慌しい足音
扉を開けは閉めまた足音が近付く

何事かとアスランがぼんやり考えているとアスランのいた部屋の扉が開き
その扉を開いたのは珍しくいつもは整っているプラチナブロンドの髪を少し乱したイザークだった

「アスラン!!」

「・・・イザーク?」

―どうした?―の言葉がアスランには出せなかった
それ以上の言葉を出せば溜まった涙が止まらなくなってしまいそうだったからだろう
どうしたのか、とイザークの様子を伺っていればフイに抱き締められ感じられる温もり
その他の人よりも少し低めの温もりにアスランはまた別の意味での涙が出そうなった
それはきっと安堵から























それから一週間に必ず一回はキラやラクス、カガリからの連絡が入った
キラもラクスもカガリもいつも通りに振舞っているように見える
しかし普段とおりではないのだ
彼のように普段通りならば少しは救われただろう
が、彼等の普段通りに振舞おうとするその優しさがアスランにとっては苦痛になってしまった
彼らが自分を気遣い普段通りに振舞おうとすればアスランもまた何でも無い様に振舞う
それが苦痛で仕方が無い





連絡の無い日、イザークの仕事が休みの日は正直アスランはホッとしてしまうのだ
イザークがいればキラ達からの連絡を一切アスランに通すことは無い

それはイザークがキラ達とアスランを関わらせたくないと思った事なのだが何よりもアスランが嫌がっているからなのだろう
アスランは口には出さない
しかし見ていれば小さなサインを出している事はわかる
あのキラがアスランの元を尋ねた時に何を話したのか何を感じ何を言われたのかはイザークには分からない
アスランに聞けばいいのかもしれない、がアスランはそれを言いたく無さそうだしあれ以来、穏かさを取り戻しつつあったのに何処と無くその穏かさが乱れているようにも感じてしまう

「アスラン」

「何?イザーク」

「・・・・・・・」

「イザーク?」

「・・・アイツに何を言われたのかは知らんが変な誤解をされても困るからな」

「・・・・・・?」

「貴様は此処にいてもいいんだからな」

「・・・・・え?」

「貴様一人くらい俺が何とか出来ないわけないだろう
だから変な考えは捨てて今は此処にいて自分の事や他にも考える事は色々あるだろう
だから余計な事は気にするな・・・」

「うん・・・ありがと」

その言葉はとても小さく聞き逃してしまいそうな声だったけれどそれでもイザークの耳にはきちんと届いた
―ありがとう―それは誰かに感謝する為の一番簡単な方法だが涙が出そうなくらいの感謝、想いを乗せた言葉―ありがとう―は中々言うことはない
その一言を言うのに胸が押し潰されそうな感覚を知っている者はこの世にどれほどの数が存在しているのだろう?

有難う
ありがとう
アリガトウ
君がいてくれて良かった

その後の沈黙はとても心地の良いものだ
大切な者と過ごす空間
それは蝕まれた心を癒し
ドラッグという名の悪魔から少しでも解放される時

傍に居たいと願う
アスランは涙が溢れそうになるのを堪えながらイザークの傍によりその温もりを確かめるようにイザークの胸元に顔を埋めもう一度

「ありがとう」

と呟いた
イザークもそれに応えるようにアスランの身体を腕の中に閉じ込め
フワフワとした藍色の髪へと口付けた



































その数日後の月に一度行っている検査では中々良い結果らしくアスランの主治医を務めていた者も「良くやった」とアスランに告げると微かに微笑を浮かべこの事をイザークに早く報告しようと通信画面に手を伸ばすが触れる寸前でアスランの手が止まる

良い報告は目の前でちゃんと話したいとアスランは今すぐ報告したい気持ちを抑えゆっくりと画面から手を離してゆくが顔の緩んだ表情は中々治まりそうにない、とアスランは自分で自分に苦笑した

それから数時間だっただろうか
暖かい人工の日差しを浴びながらウトウトしていたアスランだったが誰かからの通信を知らせるアラーム音にフ、と意識を浮上させイザークかもしれないという微かな希望と共に通信を繋げた


















「・・・・・・・・・・・・・・・・キ、ラ・・・?」

《久しぶりアスラン・・・》

「何で・・?」

《この前の返事、そろそろ聞きたいと思って
本当は直接アスランに会いに行きたかったんだけど時間がないしそれに今の状況じゃ行けそうになくてね・・・」

「キラ、俺は・・《助けてあげて欲しいんだ・・・君に・・・》

「・・・・・・・っえ?」

《カガリ・・・今のオーブの情勢は正直カガリだけじゃどうにもならないと思うんだ
とある人物がまるで自分が代表のように振舞っていてカガリの考えだけじゃ勝てないと思う
だから君にカガリを助けてやって欲しいんだ》

「・・・・ぁ」

それはアスランの心を揺さぶるには十分な言葉だっただろう
あの先の大戦で彼―アスラン―に生きる事を選ばせた少女
その少女がまた大変なのだと、アスランの考え、サポートが欲しいと言われれば断れる理由がアスランには見つからなかった

「っ・・・ぁ・・・・・・・わかっ、た・・・」

「そう、じゃあ明後日にでも迎えに行くから・・・」

その言葉を最後に画面は消えそこに写るのは真っ黒な画面と己の情けない姿

今にも泣き出してしまいそうだ
アスランは苦笑気味にそう思ったが息が詰まる感覚に上手く笑えない

もう己は大丈夫なのだ
もう甘えてはいけない
泣いてはいけない
本音を言えばソレは我儘に聞こえてしまうかもしれない

アスランはソッと涙を流し離れる不安感、恐怖から逃れるようにベットの中へ潜り瞳を閉じ眠りと言う名の深い闇の中へ身を預けた























「・・・・・ァ・・・ラン・・・アスラン」

「・・・んっ・・・ィザーク・・・」

「まだ何も食ってないと聞いたがなんかあったのか?」

暗闇から解放され瞳を開ければそれは見慣れた姿
眩しいほどのプラチナに空の色をそのまま借りてきたような瞳の色
一見、冷血そうに感じられるが本当はとても暖かく甘えてしまう人物

再び込み上げてくるわけのわからない感情をアスランは押し込めるようにしながらゆっくりと言葉を紡ぎだしてゆく
少しでも声が震えないように

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・イザーク・・・・
俺・・・一度、キラ達の所へ行くよ・・」

「・・・・・・お前はそれで大丈夫なのか?」

「・・・・わからない、けど・・・でも・・・・・・・」

「貴様が決めた事なら俺からは何も言わん
だが、もし前みたいになりそうだったら必ず戻って来い
いつか部下にしてやる、その言葉を嘘にさせるな」

「・・・わかった」

アスランの時計の針は止まったままだった
動いているように見えてまだ過去から離れられず一人そこで佇み止っている時間の中でもがいている

自分の弱さで薬に手を出してしまった事
自分の所為で殺された者
自分が殺めた者
自分が助けられなかった者を想いながら

その針が最初に止まってしまったのは恐らくあのヘリオポリスでの事件から止まってしまっていたのだろう
そしてドラッグの所為でその針は止まり続けてしまっている
悪魔の薬
人を快楽に溺れさせその代償にその人物の人生を頂く
本当に悪魔のような薬だ

しかしドラッグを作り出しその時計の針を止めてしまうのが人間ならその針を動かさせるのもまた人間だ
実際、止まっていたアスランの時計は本当に少しずつだが動き出そうとしている

自分で行動し
自分で考え
誰かを心から信用し大切に想う

たったそれだけかもしれないがそれでも無駄ではない

例え誰かが無駄だ、と決め付けても最終的にそれが無駄であったのか、なかったのかを決めるのは本人だ
他人がどう言おうとそれは変わりはしない

翡翠の瞳が隠れれば自然に交わされる口付け
唇から伝わる体温に少しの安堵感
名残惜しく唇が離れれば微かに感じるのは吐息

「・・・ザーク・・・ィザーク・・・」

言いたい事はあるはずなのに上手く言葉が選べず出てくる言葉は目の前に居る彼―イザーク―の名前のみ
見当たらない言葉にもどかしさを感じながらも今はなにも言わずにいたいと思うのは矛盾しているのだろうか?

彼と離れなければならない時間は刻々と過ぎ
永遠に離れるわけではないのに胸が締め付けられる感覚にまた涙がでそうだ、とアスランは心の奥底で呟いた





























もう僅かしかない限られた時間だと思うと時間が過ぎるのを異様なくらいに感じてしまう
数分しか過ぎていないのに実際は数十分も進んでいたり下手したら数時間経っている事もある

アスランの中毒症状は完全に治ったわけではない
いや、実際には永遠に付き合っていかなければならないのだ
己自身と
負ければ待つのは悪魔が微笑む場所
終わりでしかない

アスランも恐らくあのまま誰にも気付かれなかったのなら終わりの門を開くまで誰も気付かずただ一人終わりへと進んでいたのかもしれない
己の時間を止めたまま
誰にも知られずに朽ちてゆく

それを止めてくれたのは前へ進ませてくれたのは
誰でもないただ一人の存在








・・・―思考を巡らせていたアスランは搭乗アナウンスにより現実の世界へと引き戻された

イザークは此処へは来てはいない
正確には来れなかった、と言ったほうが正しいのかもしれない
アスランは話さなかった話せなかったのだ
自分が此処から出て行く時間、日にちを・・・

言ってしまえば恐らくイザークは仕事を休んで此処へ来ていただろう
しかし、アスランはソレを拒んだ
この場でもしイザークがいたら離れられなくなってしまうと分かっていたからなのかもしれないが・・・





アスランは指定していた席に座るとプラントの人工で作られた空を見上げ自嘲的に笑った

なんて愚かな自分
離れたくなどなかったのに結局流されて離れてしまった
何一つとして成長していないのだ
ただ彼に甘えて
支えてもらって
癒してもらって
成長していない自分

そしてまたきっとこれから向かう所にいる彼等の前で自分はきっとまた偽ってしまうのだろう
嘘を付いてしまうのだろう
口癖のように
「なんでもない」「大丈夫だ」























コレはまだ運命と言う名の渦に巻き込まれる前の序章に過ぎない
彼に待っているのは
死か生か
束縛か自由か
苦痛か幸福か

それは今はきっと誰にもわからない
ただ一つの真実
それは彼―アスラン―は彼―イザーク―の元から離れ彼等の元へ行くのは苦痛である、ということだけであろう
















大切な者と離れるのは何よりも苦痛
そして周りに合わせていくのも苦痛

無意識の残酷さは何よりも冷酷で誰かを追い詰め壊してゆく