※警告※ 前回よりお待ち下さった方々、お待たせいたしました とりあえず種デス編へ始まる前のお話しはこれで完結(?)です 次から種デスの世界へ入りたいと思います 今回はUの続きだとでも思っていただければ幸いです イザークは今回は登場しません 後、名無しの子供が出張ってます 前回同様、警告いたします カガリ、キラ、ラクスが好きな方は見ない事をおススメいたします あと、クライン派の方も見ない方がいいと思われます 楓さん、カガリやキララク、クライン派の考えが苦手ですので優しくありません それでは前書きでこんなに書いてしまって申し訳ありませんでした ですがキララク又はキラ好き、ラクス好きカガアス又はカガリ好き様に後で苦情を言われましても楓さんやはり無反応ですのでほんの少しの優しさでの警告ですのでご了承下さいませ では↑の事など前回同様、気にしないという方はこのままお進み下さい 瞳を開ければそこに待っているのは現実 彼のいない現実 睡眠は一番簡単にこの現実から瞳を背ける事が出来る行為だ 眠いわけでもなくオーブに来る前までは人並みの睡眠で足りていたはずなのに彼―イザーク―の元から離れオーブへ来てからは必要以上に身体が睡眠を求めていた 仕事をしていればそれなりに気はそれる が、何もしていない時 仕事が終ってしまえば食事もとらず睡魔が襲いそのまま身を預けてしまう事も少なくは無い 身体が睡眠を求めているのか 心が現実から逃げたがっているのか 恐らくは後者であろうがアスランはそれを気にしない素振りを見せながら日々、生活していた 彼―イザーク―がいないこの場所で 『ドラッグ〜V〜』 アスランの為に設けられたオーブの部屋の一室、時間的にはもう深夜だろうか シンっとした闇の中で一つの塊がベッドの上でモゾリと動き小さな溜め息のような息遣いの後でそこで寝ていた人物―アスラン・ザラ―がゆっくりとその身を起こし、また一つ溜め息のように息を吐き出した 起きたての思考で何も考える事など出来る筈もなくアスランは部屋を見渡し食事もとらず服もそのままで寝てしまったのだ、と今だ朧気な思考でそこまで考えると空を見上げればまだ夜なのだという事が確認出来る まだ夜― アスランが気にするのは食事の事でもなく服の事でもない まだ夜なのだという事 朝まで寝ているような感覚だったのか まだ夜だと確認すると再び瞳を閉じ眠りへと身を沈めようとするが冴えはじめた思考が食事をとっていない、とアスランの身体へ訴えかける 人間ならば当たり前な身体の欲求なのだが今のアスランにとってはその当たり前の事がどうしても鬱陶しく感じ自分で自分に嫌悪感さえ抱いてしまう 食事を摂るという事は生きてゆく上でとても大切な事なのだ。と、なにかの学者達が言っていたがアスランにしてみればその大切な人間の欲求は邪魔でしかない 食事、つまりは栄養を摂取するという事 だが最近のアスランは食事をしても戻してしまう事がある こみ上げてくる嫌悪感と共に吐き出される食事 食べる事の意味さえ今のアスランにしてみれば無意味に思えて仕方不が無い 栄養ならば薬で摂取してしまえばいい それが今のアスランの食事に対する考え方だ 面倒臭そうにアスランはベッドから起き上がりキッチンへ向かうと冷蔵庫の中になるミネラルウォーターをコップに注ぎ込み喉を潤す 冷たい液体が身体に染み渡るような感覚にアスランはハ、と吐息を漏らすと引き出しから必要最低限の栄養剤を取り出し手の上で転がる薬達を数秒眺めると自嘲的に笑いミネラルウォータと共に身体の中へ流し込んだ 食事とは到底言えないが栄養は摂っているのだから大丈夫だろう、とアスランは考えいつもそれで終らせてしまう事も多い そして今まで闇でしかないと思っていたアスランの部屋には優しげな月の儚い光が差し込みその光は何故かとても心地よく少しだけ心が癒されるようだ 生気の感じられなかった瞳にはうっすらとだが光が戻り切なげにけれども優しい笑みをアスランは浮かべ彼を思い出した 「・・・・・イザーク・・・」 今頃、彼は何をしているだろうか? 今の自分の状態を知ったら彼はまた怒り叱ってくれるのだろうか? 何を想い どうやって過ごしているのだろう? 逢おうと思えば決して逢えない距離ではないだろう しかし今の現状ではソレが許されはしない アスランは月明かりが差し込んでいる場所まで移動するとそこで腰を下ろし月を見上げた その姿はまるで何かに懺悔する罪人のようにも見えるがその表情はとても穏かに微笑んでいる その晩、アスランはそれから一睡もせず月を見上げ朝日へと変わりゆく変化をずっと眺め、ただ一人の事を思い出していた とても愛おしそうに微笑ながら 今だけは嫌な事など全て忘れて・・・ 眩しい程に太陽が光輝く頃、アスランの静寂はある一人の少女のドアをノックする音に破られてしまう また何か問題でもおきたのだろうか? アスランは静かな動作でその扉を開き部屋へ少女を迎え入れたがどうやら問題が起きた、という訳ではないらしい 問題が起きたわけではないなら一人でいさせて欲しいとアスランは心の中で思うがソレを言葉にする事は出来なかった どうやらキラ達のいる所へ行くらしくそれは恐らく少女なりにアスランの身を心配して、だとは思うがその気遣いがまたアスランを苦しめる 少女は普段どおりに振舞おうとしているのだろうがやはりその行動はどこか遠慮している様にさえも見える その気遣いはどれ程、アスランを傷付けているのかは少女はきっと分かってはいないだろう 「昨日、アレからすぐ寝てしまってまだシャワーを浴びてないんだ。 だから少し待っててくれるか?」 「そうなのか?わかった。 じゃあ待ってるから出たら声掛けてくれ」 「あぁ」 バタンと閉まるドアの音と共に吐き出される溜め息 アスランは前髪をかき上げると替えの服を下着を取り出し浴室へと向かう シャワーは嫌いではない 頭から足へ流れるお湯はとても心地よく思考を止めボーっとするのも悪くは無く 無意識に流れる涙も今は流れるお湯が隠してくれる シャワーから上がり替えの服に着替えまだ湿っている髪を乾かしているとフ、と瞳の端に捉えたシルバーリング 太陽の光に照らされキラキラと輝くそれがとても眩しくて愛おしくて髪を拭いていた手を止め薬指に納める それは一緒に暮らしていた時に渡された指輪 シンプルなデザインはいかにも彼らしくつい笑みが零れてしまったのを覚えている 凝った装飾などはなくありのままの姿の指輪 ヒヤリとした感覚なのに何故か安堵感が生まれ何かが胸を締め付けた 空の澄んだ青さと綺麗で冷たく感じるが安堵感を与えてくれるシルバーリング どれも彼を連想させて胸がホッと暖かくなるのをアスランは感じていた どうしようもない不安感から解放してくれるもの達 それはどれも彼を連想させるものばかりでアスランは苦笑するしかない 依存してしまっているのだろう あまりにも心地の良い居場所だったのだから アスランは指に納めていた指輪をそっと外すと傍に置いてあったシルバーのチェーンを指輪に通しそれを首に掛け服の中へ仕舞う 誰にも見られないように コレは自分だけのものだ、と主張するように 服の上からギュッと指輪を握り締めアスランは車の鍵を持ち、少女が自分を待っているであろう、とその部屋を後にし少女の元へ向かった 「すまない、待ったか?」 アスランが申し訳無さそうな表情で少女の元へ向かえば少女はアスランの姿を少し見つめ少し首を降るといつも通りに振舞い少女は笑顔で早く行こう、と言わんばかりにアスランの腕を掴み少し早歩きになりながら言葉を紡ぐ 「そんなに気にしなくても大丈夫だ。それよりも行こう キラ達もお前に逢えるのを楽しみにしている」 「・・・あ、あぁ・・・」 二人が車に乗り込み走り出す車 チラリと隣に座る少女を見ればまた何かを考えているようだ 正直、それはアスランは好きではなかった 前回も何かを考え少女は少女なりに判断したのであろう発言 しかしそれは綺麗過ぎる言葉 受け入れる者など少ない 戦争がようやく停戦を迎えまだ皆の心に残る傷は深い 綺麗過ぎる理想 偽善ともとれる言葉 アスランがその後にフォローしなければ恐らく少女は暴走し考える事をやめ己の理想を高々に語っていただろう 綺麗過ぎる理想が現実となるはずもない 政治は綺麗事だけでは出来はしない たとえ少し汚い手を使ってでも国民を護るのが代表になった者の勤めだ だが少女は汚い手は使わずオーブはオーブのやり方で進んで行きたいと言う 理想だけでは国民の幸せはやってはこない 「アスラン・・・」 「なんだ?」 「近い内にプラントへ行こうと思う」 「・・・・・・え?」 「オーブの技術がプラントで使われている。 それをやめて欲しいと何度も言ってはいるが返事さえ返ってこない」 「カガリ、それは・・・」 「地球連合軍の奴らが我等がプラントに技術を提供している、と言っているんだ 我々はそんな事はしていないのに」 「・・・・・・だが、カガリ・・・それは恐らくオーブからプラントへ行った人達だろ?その人達が生きていくには仕方の無い事なんじゃないのか? そうやって自分の持てる力を知識を出さなければその人達は生きてはいけない」 「だがしかしオーブの技術を出さずとも生きていけるはずだ!!!」 なんの脈絡もなく吐き出された言葉 それはあまりにも矛盾している 少女―カガリ―の言うことも分からなくはない が、彼等はオーブが守りきれなかった者達 それを今更、権利がどうこう言って通じるものなのだろうか? 確かに元はオーブの技術でも新たに何かしらは開発されているであろう それすらも駄目だと言うのだろうか? オーブの技術で生きている彼等 プラントで生きていく為、認められる為、必死だったのかもしれない そうは考えてやれないのだろうか? アスランは少し思考を巡らし軽く溜め息を付いて先を急いだ カガリの言う理想はあまりにも高すぎ綺麗過ぎている 今の現状ではその理想が現実となる日は無い その後の会話はポツリ、ポツリと交わされる言葉のみ 先程の会話は今、話す内容ではなかったのかもしれない そしてキラ達がいる場所へ近付く程にアスランの心臓は五月蝿いくらいに鳴り胸が締め付けられる感覚に襲われていた それは幼馴染に会える期待なのか それとも名も知れぬ恐怖なのか アスラン自身では分かりかねていたがその正体は恐らく『不安』 薬を使用している事を隠し続け知られたその後もアスランはキラ達の手は取らずイザークの元へ行った その罪悪感からなのか それともまた自分は遠まわしに愚かなのだと言われる不安なのか それともその両方なのか それは恐らく誰にもわからないだろう ・・・―海辺に作られた家の前で車を止めるとアスラン達に気付いたそこに住んでいる子供達が嬉しそうな笑顔で駆け寄ってくるのが視界の隅に入り微かな微笑みと共に手を振ってやると子供達の笑顔は一層輝きアスラン達の元へやって来た 「アレックス久しぶり〜」 「違うよ、アスランだよ〜」 「え〜アレックスじゃ駄目なの?」 「私はアスランの方がいい〜」 「アレックスだもん」 今にもアスランの事で喧嘩をしてしまいそうな子供達をアスランは静かに宥めると後ろの方で遠慮しているような子供が何かを持ちアスランの方を伺うように見ている まるで悪いことをして中々言い出せないような感じでアスランを見つめるその子供にアスランは苦笑を浮かべながら頭を撫でてやるとその瞳からはポロポロと大粒の涙が溢れでて胸の辺りで持っているソレを更に力を加えキュっと大事そうに抱き締めていた 「どうした?」 「ぁのね・・・これ、壊れちゃ、た・・・んっの」 「そっか、ちょっと見せてみて?」 優しくアスランが問い掛けると子供はおずおずと胸に抱き締めていたソレをアスランに差し出し直せる?と上目遣いに瞳だけで訴えかけている その無言の訴えにアスランはニッコリと子供が安心出来るように微笑みかけ再びアスランは子供の頭を撫で 子供が安心したように笑うとアスランはクルリ、と後ろで子供達と戯れていたカガリの方へ視線を向け苦笑気味に声を掛けた 「カガリ済まないが先に中に入っててくれるか? 俺はこの子のコレの調子を見てから中に入るから」 「・・・・ん〜・・・分かった、さっさと来いよ?」 アスランは先に家の中へ入っていくカガリを見送ると 子供の持っていたソレを受け取るとカチャカチャと器用に弄り中身の配線等をチェックし異常のある部分を見つけるとアスランはソレを最低限の工具が無いにも関わらず異常をきたしていた部分を直し泣いている子供に笑顔で返してやる 「これからも大事にしてね」と言いながら 子供が泣き止み笑顔でアスランの言葉に頷くと友人がいるのであろう場所へと戻っていく それを遠い眼で見つけているアスランはフ、と思う 壊れたモノは自分のようだ、と 異常をきたし正常に働かなくなり その異常がバレれば用済みだ、と捨てられ忘れられていく壊れたモノ達 そんな壊れモノのようだった自分を捨てるわけでも 罵るわけでもなく ただ手を差し伸べてくれたのは他でもない彼― こんな事でも彼を思い出してしまう自分にやはり苦笑しかでてこない ・・・―イザーク、君に逢いたいよ―・・・ アスランは彼の事を思い出しながらあの子供が泣きながら自分に頼ってくれた事に安堵しているのかもしれない、とやはり苦笑を浮かべてしまう キラ達に会う覚悟 何を話せばいいのかわからない不安 罪悪感 理解出来ない恐怖 いろんなモノが入り混じり本当はパニックを起こしそうで怖かったのだ それにほんの僅かな時間をくれた事への安堵感 藍色の髪が海風に揺れてその風はアスランを慰めるように包み込むように吹く 優しく時には背中を押すように強く 「まだ此処にいらしたのですか?」 アスランの表情が緩み想いだけがどこか遠くへ行きかけた時に聞こえた凛とした声 それはプラントで歌姫と呼ばれていた桃色の髪を持つ女性―ラクス・クライン―だ そしてアスランの元婚約者でもあった 「キラ達が待っていますよ?」 婚約を解消したとは思えない表情でアスランに接し微笑む歌姫 優しげな声でアスランに接しているラクスだがアスランの脳内ではラクスのあの時の言葉がグルグルと巡り何かを言わなくては、と思うが身体が言う事を聞いてはくれずただ瞳を見開きラクスの顔を見ることしか出来なかった ―アスランが信じて戦うものは何ですか? 頂いた勲章ですか? お父様の命令ですか?― 何度もグルグルと頭の中で響く言葉 なら少女はわかっているのだろうか? なんの為に戦い 何を信じればいいのか? 目の前で失う痛み 自分の無力さ どうしようもないもどかしさ 吐き気がするほどの自己嫌悪 受け入れたくない現実 押し付けられる理想― 本当は苦しくてしかたなかったんです 貴方の偽善的な理想が 「アスラン?」 「・・・っぇ、あ・・はい」 話しかけても中々、反応を示さないアスランにラクスは困ったように微笑みながら名を呼びアスランを現実へと戻した 思考を戻し返事をするもどこか心此処に有らずの状態のアスランにラクスは何を思ったのか慈しむような声と微笑でアスランに向き合いその手をギュっと握った 「・・・あまり無理をなさらないで下さいね 私達、お友達なのですから・・・ ですから辛い時は頼って下さいね」 「・・・・か・・・」 「はい?」 「いえ、今は本当に大丈夫ですので」 「そうですか では参りましょう?」 『辛いときは頼って下さいね』 ―貴方がそれを言うんですか?ラクス・クライン― 家の中へと戻っていくラクスの後ろ姿を眺めながらアスランは自嘲的に笑い前髪をクシャリをかき上げる どこまでも澄み渡る青い空を見上げ声には出さなかったがアスランはまた自分の事を罵ることしか精神の安定を保つ事は出来なかったのかもしれない ラクスが自分から離れキラの元へ行ったのも エターナルに乗り己の信じる正義を掲げ戦場へ舞い降りたのも 自分を突き放す様な言葉を言ったのも 恐らくは自分の所為なのだろう アスランは戦う事に迷い進むことをやめ止まってしまっていた 確かにそれがラクスにとって彼から離れる原因となってしまったのかもしれない だが人である以上、悩み 時には立ち止まってしまう事も仕方の無い事なのではないだろうか? 例え遺伝子を改良したコーディネイターであろうとも悩み苦しむのは当然なのであろう それが戦争中なのだから許されはしない。と言うことは決してないはずである その苦しみは本人かそれと同じ立場にいた人間にしかわからない事であろう 「・・・・ィザー・・・・く」 アスランは掠れた声で囁くように彼の名を呼び キラ達がいる家の中へと入っていく 再び訪れた理由の分からない不安感と共に 長い廊下を歩きある一室の扉の前でアスランは震える手をギュっと握り締めゆっくりと扉を開いてゆくとキィ、と言う音と共に扉は開かれ 無意識に震えてしまう呼吸を無理矢理、押さえつけ胸元に隠してあるリングを服の上から触れ不自然ではない程度に中にいる人物達に微笑みを向けていた 胸の中の不安を悟らせないように 普段どおりに凛と もう大丈夫だと思わせる為に 揺れる瞳は不安や恐怖からではない 瞳が揺れるのは期待や嬉しさからだと アスランは自分で自分にそう言い聞かせなければ恐らく不安に満ちた瞳で彼らをコレからも見てしまうからだろう 悟らせてはいけない、彼の所に戻りたいと 否定してはいけない、彼等の気持ちを 自分は知ってしまっているから 拒絶される痛み 否定される悲しみ 「ようやく逢えたね・・・アスラン」 「き、ラっ」 「イザークさんの家で逢ったけどさ、やっぱあそこじゃ逢った気になれなかったしね」 「・・・・・・・」 アスランはキラの言葉にどう答えればいいのかわからなかった いや、わかるはずもないだろう YESと言ってしまえばそれは彼の傍にいた時の幸福感を否定する事になってしまう NOと言えばそれは目の前の幼馴染の言葉、気持ちを否定してしまう事になってしまう だからアスランには沈黙、という反応しか出来なかったのだ それを周りはどう捉えたのかラクスとカガリはアスランを座るように促しお茶持ってくる、と席を離れていってしまったのだ そこに降りるのはやはり沈黙 元々、人と喋るのを得意としていないアスランはこの沈黙に何を話せばいいのか どう接すればいいのか分からずソレがまた、沈黙を長引かせる イザークと一緒にいた時の沈黙はこうも重苦しいものではなかった、とやはりアスランは頭の隅で考えてしまう 誰かと比較することは決して良い事とは言えないだろう しかし嫌でも思いついてしまう事に思考は止まってはくれない イザークとの沈黙は互いに読書をしたり、穏かな空気のものであり だから彼との間の沈黙は苦痛ではなく安らぎであった 「ねぇ、アスラン?」 「・・・・っぇ、あ、何?」 「・・・・・今さ、誰の事を考えてた?」 「・・・・・っっ」 「僕が当ててあげようか?」 机を挟んで座っていたキラの腰が浮き微笑みの仮面を付けたままアスランの耳元で甘く囁く 普段よりも低い声で 脳内に沁み込むような甘さで 「イザークさんでしょ?」 図星を付かれたアスランに出る言葉は無い 確かに考えてしまっていたのだ 彼と過ごした時間 彼と過ごした安らぎ 「キラ・・・」 目の前で強い目線を向けているキラにアスランは瞳を伏せてしまった 図星を付かれて気まずくなっただけではない その強い視線が怖かったのだ 全てを見据えるような視線はもう何も見逃さない、と言っているようでアスランは恐怖と戸惑い、罪悪感しか感じられない アスランの伏せていた瞳が捉えたのはコチラへ近付いてくる影 何事かと瞳を上げればキラの顔が間近にありその直後に唇に感じるほんのりと熱を宿したモノ キスをされたのだ、と認識するまでアスランの瞳は見開かれたまま思考は追いつかず真っ白になっていた いや、思考は認めたくなかったのかもしれない アスランにとって目の前にいる人物は幼馴染であり弟のような存在であり友人だと思っている 愛情があるのか?と問われればそれは友人に対するものであり家族に対するような愛情 決して恋人やずっと傍にいたいと感じる大切な人へ向けるモノとは異なってしまう 唇から離れていく熱に思考はようやく動き出し手の甲で唇を隠しながら座っていた椅子から勢い良く立ち上がり顔は赤くなるのではなく青ざめていた 恋人だと、好きだと想っている者以外からされたキスには嫌悪しか感じない キラはアスランのその様子を眺めニッコリと笑った― 「僕がアスランへこういう事したいって思ってたなんて気付かなかったでしょ?」 「・・・・・・っぁ」 「それは仕方ないよね、僕だってずっと気付かなかったし」 「な、んで?」 アスランの問い掛けにキラは応えず アスランも又、何に対する問い掛けなのか分からずにいた キスへの問い掛けなのか? 何故、今になってその言葉なのか? 今はラクスと恋人同士のなずなのに? アスランの思考は混乱する 混乱はパニック症状へと陥らせてしまう可能性がある 呼吸が不規則になり始めたのを自覚するとアスランは部屋から逃げるように出て行き外へ置いてある自分の車へと走り胸元の辺りにあるリングを握りしめた 自分の車へ戻ってきたアスランはドアに手を付き崩れるようにその場へ座り込んだ パニック症状へとなり掛けている自分を落ち着かせるように俯きながら必死に思考を別の方へと逸らしていく 瞬きも忘れ荒れた呼吸は口元を手で覆ったまま 瞬きを忘れた瞳からは一滴の涙 「アスラン・・・?」 人の声に驚いて後ろを振り向けばソコには先程、壊れたモノを直してやった子供がこちらを心配そうに伺っている 『なんでもない、大丈夫だ』と言ってやりたいのにアスランは胸につっかえるような感覚に言葉が出ず頭を撫でてやる事しか出来ない 「どこか痛いの?苦しいの?悲しいの?いじめられたの?」 「だ・・・いじょうぶ、だか・・ら」 ようやく出た言葉は変な所で途切れてしまい一言、一言、言葉を出す度に涙がでそうになってしまう アスランはソレを今、この目の前で自分を心配してくれている子供に見せないように堪えながら無理矢理にでも次の言葉を紡ぐ 「悪い、んだけど・・・お願いを・・聞いてくれる、かな?」 「うん!!」 「中の皆・・・に俺は、先に帰る・・って伝えてくれる・・・か?」 「それを言えばいいの?」 「うん、カガリは後で誰かを・・・迎えに、来させる・・から」 「わかった!!」 子供が頷くのを確認するとアスランは車へ乗り込み車は走り出す 気付きたくなどなかった 知りたくなどなかった 聞きたくなどなかった 自覚など・・・しないで欲しかった それは我儘な願い? 「キラ、アスランが先に帰ったそうですわ」 「そう」 アスランが先に帰ったと告げに来たのはラクスだった カガリの方は何かを考えているのか、此処には来ず顔を見せない 「何か、ありましたの?」 キラの素っ気無い態度にラクスは少しばかりの疑問を抱く プラント―イザーク―の傍に居た時にはアスランをこちら側へ戻す事へ必死になっているようにも見えたのだろう そんなキラがアスランがまるで逃げるように帰ってしまえば動揺している、と思い来て見ればその様子は予想外に落ち着き微かに笑みを浮かべているようにも見える 「ラクスが心配する事は何もないよ ・・・コレは僕とアスランの関係だから」 それは拒絶かやんわりと突き放されたように思える言葉 しかしラクスにキラを疑う事は出来なかった 何もない、と言われれば何もなかったのだろうと思ってしまう 所詮はプラントの歌姫、戦争を止めた英雄、平和を司る妖精と言われ様が好きな男の前ではただの女に過ぎない そう、あの最終戦の終わりに近付いた頃になればラクスの心は戦争よりも一人の男で占められていた どんな理想を掲げようとも好きな男ができ、染められればそれはただの夢物語 今更、何を語ろうとも説得力など無い 「・・・そうですか、私はカガリさんの所へ行ってますわね」 「うん、わかったよ」 そう言い微笑みを深めたキラだったがその紫の瞳はラクスを捉えてはいなかった パタン、と閉まる扉 扉が閉まる音と同時にキラの微笑みは更に深いものへと変わる 「もう見逃さない、離さないって決めたんだ」 放った言葉は冷たい キラはアスランへの感情は最初は自覚などなかった 自覚したのはアスランがキラの手ではなくイザークの手をとった時 その時感じたのは自分へのどうしようもない苛立ち、絶望 アスランの変化さえ感じ取ってさえいればアスランは変わらずキラの傍で笑っていたのかもしれない そう考えれば心には後悔の文字しか浮かばない アスランが自分の手以外をとるなど考えても居なかったのかもしれない アスランと殺し合い最初に出てきたのはやはり後悔 しかし目の前に現れたアスランに安堵しどうしようもない独占欲とも呼べる感情も存在していた それが何に対する独占欲とも知らずに 一緒にいれば元から人付き合いの得意でないアスランはキラの前では緊張せず話していた それがなんとも言えない優越感に浸らせアスランはやはり自分が一番なのだとキラは自惚れていた しかし目の前に現れたプラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳をもつアスランの元同僚―イザーク― 彼の存在にキラは初めて自分の思い違いだと知り イザークに嫉妬し自分の計算ミスだと後悔した アスランがプラントへ残り連絡をしても悲しそうな表情、声でキラと会話を交わし とある時はイザークがアスランへ変わるのを拒絶した日もある それはもちろんアスランの体調が優れなかったりアスランが今日は無理だと小さなサインをイザークへと送っていたからなのだがキラにしてみればアスランが自分を拒むなどありえない、と思っている キラの中で何かが少しずつズレ始めていた そして完全に音を立てて崩れてしまったのはプラントへアスランへ逢いに行った時だったのかもしれない 目の前で嬉しそうに出てきたアスラン しかしその表情はキラだとわかった瞬間に驚きへと変わり悲しみの表情へと変わってしまった 考えなくともわかってしまう アスランはイザークをあの笑顔で出迎えたのであって自分に向けて、ではない 自分の中で崩れていく何かを感じながらキラは笑った そして心の中で決め、呟いた ―君に相応しい場所は僕の傍であって此処ではない― だからコチラへ来いと誘いコチラへ来させたのだ あの時、迷い揺れていたアスランの心を感じた時にキラは声を出し大笑いをしたいのを堪え平静を装った 確信したのだ、アスランは後何か揺さぶりを書ければコチラへ来ると そしてキラの計算通りにアスランはキラ達の所へ来た それがキラにはとても愚かで愛おしいと感じさせたのだ フ、とキラが視線を窓へ向ければ空はオレンジに染まっている 「もう離さない、例え離れても僕がまたこっちへ連れ戻してあげるね」 「アスランの居場所をここだけにして」 もう自分は壊れてしまっているのだろうか? それとも狂っているのだろうか? だがそんな事はなんの問題でもない 僕はアスランが好きで傍に必要だということ 愛しているだけ その為なら利用出来るものは利用する それは悪い事ではないでしょう? ほら、恋は盲目って言葉があるじゃない? ただ周りが見えないだけだよ 誰が傷付こうが 誰が死を迎えようが関係ない アスランが自分の下へこればそれだけで構わない―・・・ その数週間後、カガリはプラントへ行くことを決意しアスランを共に連れて行く それは運命の始まり アスランを取り巻く運命が歪み始め再び悪夢へと誘い込まれてしまう 悪魔が笑う 一時の安らぎを得る 混乱が待ちうけ アスランの居場所を奪うモノが再び動き出す ―END― 無意識だった残酷さは意思を持ち自覚する 自覚してしまった心は止まる事は無く暴走を始める 周りなど見えない 見たくもない ただ彼が傍に欲しい それだけが彼の中の事実 今の全て 彼の暴走 それを止められる者はもういない |