C.E73年10月02日運命の輪が回りだし少年達を翻弄していく
そしてアスランも運命と言う名に翻弄され
世界は大きく動き出す

何を想い戦うのか?
何の為に戦うのか?

『本当は”何”とどう戦わねばならなかったのか?』
その答えはアスランの中でまだ見つからない

何の為に― 最初はこれ以上の同胞の犠牲を悲劇を繰り返させない為
だが今は何の答えも出ない

答えが出せないのかもしれないが・・・
それでも必死に答えを探してゆく

それが分かれば
その答えが見つかれば
再び、彼の元へ胸を張って逢いにいけるのかもしれない、と思ったからなのかもしれない




これはまだ運命の序章のお話
彼を待つのは生か死か
幸福か絶望か




































『ドラッグ〜W〜』





































「カガリ、服はそれでいいのか?」

「な、なんだっていいだろ!!」

「必要なんだよ演出みたいな事も・・・
 馬鹿みたいに気取ることもないが軽く見られても駄目だんだ」

アスランが此処に来るまで何度も説得を試みるがオーブの国家元首である少女―カガリ―はそれを聞き入れる様子はない
確かにカガリがドレス等を好かない事はもちろんアスランも知っていた
だが今、此処にいるのは一人の少女ではなく国家の代表なのだ
個人の好き嫌いでどうとう言っていいわけがない

プラントの代表に会いに来ているなら尚更だ
派手に着飾る事も必要ないかもしれないが、だからと言ってラフすぎても相手に舐められ、甘く見られてしまう

アスランが溜め息を吐くとフと視界に入った人
金の髪の少女に
水色の髪の少年
黄緑色の髪の少年
面識があるわけでもない
が、アスランはなんとも言えない予感に彼等を見つめた

なんでもないように見える3人の人間
しかしこの嫌な予感はなんなのだろうか?
アスランは何でもない、とこの胸に渦巻く予感を頭の隅に追いやる事で今、すべき事に思考を戻した

久しぶりに見るプラント
その景色は懐かしくもあり
暖かくもあり
そして、悲しくもあった
プラントの景色で渦巻くいろんな感情にアスランは誰にも気付かれぬようにグっと歯を食いしばり握り締めていた手を更に強く握った
そうしなければ涙が零れてしまいそうで怖かったのかもしれない




















案内された部屋のドアを開ければそこには穏やかそうな顔の人物
これが今のプラントの代表―ギルバート・デュランダル―
柔らかそうな物腰に緩くウェーブがかかった黒髪
アスランの父であり先の議長―パトリック・ザラ―とは正反対のような雰囲気を醸し出している

「やぁ、これは姫
 遠路お越し頂き誠に申し訳ありません」

「いや、デュランダル議長もご多忙のことろお時間を取って頂きありがたく思う」

それぞれの国家の代表同士のやり取り
一見、対等に見えるがカガリのような少女よりもデュランダル議長は一枚も二枚も上手なのだろう
オーブの代表であるカガリが何故、此処に来ているのかは議長の耳にも入っているのだろうに顔色一つ変えずにカガリに接している

「さて、この情勢下
 代表がお忍びで火急なご用件とは?
 我が方の大使の伝えるところでは大分、複雑なご相談とのことですが・・・」

「複雑、なのか?私にはそう複雑とも思えぬのだがな」

カガリの発した言葉に周りの者達は微かにざわつく
アスランはただ黙ってその光景を見ていたが内心はこの光景は予想していた通りのものに過ぎない

「我々オーブはかのオーブ戦の折にモルゲンレーテから流出した技術と人的資源のそちらでの軍事利用を即座にやめて頂きたいと何度も申し入れている!!」

そう、カガリが此処に来たのはオーブの技術等の話だ
だが、カガリの申し入れを簡単に受け入れられるはずもない

技術と人的資源を即座にやめる、と言う事はそれを元に作られた物まで中止しなければならずそれに関わるオーブの人間も今の仕事をクビにするしかない
そうなれば一体、どれ程の金が無駄になるのだろうか?
その金は市民の税金等で作られている物達ばかりだ
無駄になれはそれだけ損害は大きい
プラントとていきなりやめてもらいたい、と言われた所でやめるわけにもいかないだろう

実際、カガリの言葉を聞いているデュランダル議長は顔の表情を変える事無く聞いてはいるが
それはその要求は聞き入れられない、と言っているのではないのだろうか?

場所を移動して案内された先には色々な種類のMS
アスランにしてみればそれは見慣れた物ばかりだが姿は同じでも恐らくどこかしら改良はされているだろう

視界の隅にMSを捉えながらも聞き入ってしまうのはカガリとデュランダル議長の言葉
誰が聞いてもデュランダル議長の方が正しいと思ってしまうだろう
アスランと同じような事を言われカガリは言葉を少し失うがそれでも引く気はないらしい

「だが!!強過ぎる力はまた争いを呼ぶ!!!」

その時、捉えた議長の表情
穏やかではあるが強い信念を持った瞳
微かな変化にアスランは議長を見つめた

そしてその表情はアスランに一つの確信を持たせる
―カガリはこの議長には敵わない―と
考えも技量も全てにおいて国家の代表としてデュランダル議長の方が上回っているのだ

「いいえ、姫
 争いが無くならぬから力が必要なのです」

議長が言い終え、少しの沈黙
そしてその数秒後に鳴り響く警報

暴れだしたのは3機の新型

アスランは目の前の光景が信じられず瞳を見開いた
間違っていなければその暴れだした新型の機体―アビス、ガイア、カオス―はガンダム
アスランの脳裏にはヘリオポリスでの惨劇が鮮明に思い浮かんでしまう

あれが全ての始まり
幼馴染―キラ―と敵対し
彼が自分を受け入れなければ自分が彼を殺すと宣言し
仲間が殺され
彼を殺そうとして
自分は唯一の家族を失った・・・

思考は別の方向へ走りながらも傍にいる少女に怪我をさせないように目の前を先導する兵士の後ろを走る
オーブの代表がプラントで怪我したとあればオーブとプラントの間が更に険悪になってしまうだろう
それはどうあっても避けなければならない

しばらく走ると目の前で先導していた兵士が爆風に捲き込まれ恐らく彼はもう助からないだろう
そう判断したアスランは辺りを見渡し今まで飛んでいた思考を強制的に戻す
目の前には暴れだした新型
周りは今にも崩れてきそうな壁

傍にいる彼女だけでも助けなければならない
それが唯一、今の自分に出来ること
他には何も出来ない
ならば、せめてオーブの代表である彼女だけでも助けなければならなかった

そして視界の端に捉えた機体
アレに乗ってしまえば下手したら正体がバレてしまうかもしれない
ソレに目の前の機体にはいい標的にされてしまうかもしれない
だが生身でいれば瓦礫の下敷きになってしまうかもしれない
爆風に捲き込まれてしまうかもしれない

そこでアスランは判断する
―乗るしかない―
少なくともこの彼女だけでも助けなくては
戦えなくはない
むしろザクならば使い慣れていると言ってもいいだろう
多少のブランクはあるが基本的な性能はかわっていないはずだ

「来い!!」

「え?・・・っお前!!」

「こんなところで君を死なせるわけにいくか!!」

そう死なせるわけにはいかない
今の自分に出来ること
それは彼女を護ること
ソレ位しか出来ない
ソレしか出来ないから・・・

思ったとおりに目の前の機体はアスラン達の乗る機体に攻撃の標準を向ける
此処で死ぬわけにはいかない、とアスランはザクを目の前の機体―ガイア―に体当たりのように突進していく

倒すわけではない
逃げられるように隙さえ作らさればいい
今の状況から逃げられればいい・・・

だが思いは届かずもう一機、アスラン達の機体の後ろへ降り立つ
後ろを取られてはまずい
ザクを新型では性能の違いは明らかだ
ザクの機体は腕を?がれ一瞬、バランスを失う
よろけた拍子に後ろに迫っている機体―カオス―もその隙に、とザクに迫る

思考が危険だと告げる
はやり誰かを乗せ庇いながらの戦闘には無理があったのか

死ぬ?
しぬ?
シヌ?

もう駄目だ、とアスランの思考が告げると頭上で違う機体が現れる
それは頭上でそれぞれのパーツが合体していくタイプのような機体で見る限りではアレも恐らくは新型なのだろう

間の前に降り立ったその機体―インパルス―は目の前の機体―ガイア、カオス―にソードの先端を向け
聞こえてくる少し幼さを残した声はインパルスのパイロットのモノなのだろう

「なんでこんなこと・・・!!また戦争がしたいのか?!あんた達は!!」

その言葉にアスランの肩が揺れる
機体を奪い争いへと発展する
外からの攻撃
目の前で起こる戦闘風景

―同じだ
 おなじなんだ

 アノ時ト・・・―

また現れる新たな機体―アビス―
追い詰められていくインパルス

3機が相手では仕方がないのだろうか
背後に迫る機体にアスランの体はいち早く反応してしまう
例え軍をやめたと言っても体は覚えている
体は戦い方を覚えている

そんな自分に心の中で嘲笑するしかない
所詮は自分も・・・ヒトゴロシ

































増援が駆けつけなんとか逃げ延びる事が出来たがこの状況下ではどこへ降りても危険であろう
辺りは瓦礫の山でそこで紅のモノもチラチラ見える
ここで降りればコレに乗った意味さえもなくなってしまう
なにより先程の戦闘の最中で頭を打ってしまったカガリをこのまま、ここへ降ろしても手当てが出来る者がいるかどうかも不明だ
パイロットならば応急手当くらいはできるだろう
だが此処には治療道具すらなければ簡単な手当てさえも出来ない

アスランは周囲の映像を確認するとそこには議長の姿が眼に映る
議長のいく場所なら部下が危険な場所へ連れて行くはずも無くもしもの時の為に代表―カガリ―と面識のある議長の近くにいた方が安全だろう
特にこのプラントでは・・・

そう判断したアスランは意識の戻ったカガリにそれを告げ
出来る限りカガリに衝撃を与えないようにザクを操縦するが思考では先程の戦闘シーンが嫌な位に何度も繰り返し思い出してしまう

勝手に戦闘に反応した体
一緒に乗せている者の事を一時とはいえ忘れてしまっていた

それは護衛として来ているなら決して許されはしない事だ

議長が乗り込んだ新型艦であろう艦にアスラン達もザクで新型艦―ミネルバ―に乗り込み周りを見渡す
その場に議長はいなかったが此処に来ている事は間違いない
アスランはカガリを支えるような形でザクから降り今だフラつくカガリの体を支えた

「そこの二人!!動くな!!!」

フ、と振り返ればそこには赤服の少女
ワインレッドの髪に意思の強そうな瞳
こちらに銃を向けている姿にアスランは一歩、前に進みその少女に劣らぬよう、だが敵意を向けない程度に強い瞳を向けた

「何だ、お前達は?軍の者ではないな?!何故その機体に乗っている?!」

「銃を降ろせ
 こちらはオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハ氏だ
 俺は随員のアレックス・ディノ」

「・・・オーブの・・・アスハ?」

「ディュランダル議長との会談中に騒ぎに巻き込まれこの機体を借りた
 議長はこちらに入られたのだろう?
 お目にかかりたい」

少し戸惑う様子の少女にアスランの瞳の強さは変わる事はなく少女を見つづける
内心では自分の言った台詞に笑いが込み上げてきそうだったのだが・・・
偽りの名を何の躊躇いもなく発した自分
本当の名、両親が暁という意味なのだと言いながら付けた自分の名―アスラン―ではなく偽りの自分の後ろにいる少女達が付けた偽りの名―アレックス―をなんの躊躇いも無く自分は名乗った『アレックス』と
そこに生まれるのは名を付けてくれた両親への罪悪感、本当の名では此処には居られないのだと思ってしまった絶望感
偽りの名は自分を守る為のもの
しかしそれがアスランの胸を締め付けてしまう

自分を守る為の名
しかしそれと同時にその名は
アスランを苦しめる名でもあった




















『コンディション・レッド発令』

『パイロットはブリーフィングルームへ集合して下さい』

代表が怪我をしているのでまずは治療を・・・とアスランは要求し
ちょうど医務室へ向かっている最中にコンディション・レッド発令の言葉が艦内で放送される
それは戦闘合図と言ってしまっても過言ではないのではないだろうか?

議長が此処に居る事は間違いない
その艦が戦闘へ出る?
アスランは耳を疑い思わず声に出してしまう

「何だと?この艦は戦闘に出るのか?」

「アスラン!」

「・・・・っ」

「・・・ぁ」

「状況については私からはお答え出来ません
 とにかく医務室へご案内いたします」

目の前の赤服の少女―ルナマリア―の言葉などアスランの耳には入ってはいなかった
今、この少女は誰の名を呼んだ?
この少女が偽りの名―アレックス―のIDを自分に渡し
この名を名乗るように言ったのではなかったのか?
それが何故、今?
それもこの国でこの艦でその名を呼ぶ?

カガリが目の前で治療している時もアスランの頭の中はそれしか考えられなくなっていた
オーブへ亡命してから自分の顔を知っている者は少ないだろう
だが上層部、アカデミーの履歴には自分の名は今だ記されているはずだ
この少女もアカデミーで上位10位以内に入る者なら恐らく自分の名も知っているかもしれない
そしたらもうバレているのだろうか?

アスランが思考を巡らせている頃
紅い瞳がアスラン達が乗っていたザクへ向けられていた

紅い瞳に漆黒の髪の少年
名はシン・アスカ


































その後、議長に会う事は出来たがこの新型艦―ミネルバ―は三機のMSを奪った所属不明艦追撃の為、このまま艦を進めるのだと言い渡された

目の前でカガリと議長との会話が交わされる

「本当にお詫びの言葉もない
 アスハ代表までこのような事態に巻き込んでしまうとは・・・」

「あの部隊についてはまだ何も分かっていないのか?」

「えぇ、まぁ・・・そうですね艦隊などにもハッキリと何かを示すようなモノは何もなく・・・
 ですが、だからこそ我々は一刻も早くこの事態を収拾しなくてはならないのです
 取り返しのつかない事になる前に・・・」

「あぁ、分かっている
 それは当然だ
 今は何であれ世界を刺激するような事はあってはならないんだ・・・絶対に!!!」

下に俯き拳を握る少女の傍でただ黙って立つことしか出来ない自分にアスランは自分に苛立ちそして自分で自分を罵る事しか出来ない
何も出来ない自分に苛立ち
何もする事がない自分に吐き気がする




「オーブのアスハがこの艦に?」

「うん!私もビックリだよ
 こんな所で大戦の英雄に会うとはね!!」

少し興奮気味に離すルナマリアだったが紅い瞳の少年―シン・アスカ―の瞳は一機のザクに向けられたままだった

「でも何?あのザクがどうかしたの?」

「あ、いや・・・誰が乗ってたのかなって」

「操縦してたのは代表の護衛をしてた人みたいよ?
 アレックスって名乗ってたけど・・・でも・・・






『アスラン』かも」

「え?」

「代表がそう呼んだのよ!とっさにその人のこと『アスラン』って!!
 ザフトの伝説のエース『アスラン・ザラ』
 今はオーブにいるって噂でしょ?」

































「アスラン・ザラ・・・」

紅い瞳の少年が自分に言うように呟く
彼の名を・・・






議長は命を預かるのだから誠意を・・・と艦内のあらゆる所を案内し
行き着いたのはMSデッキ

ザクやインパルスと呼ばれる機体の発進システム等の事を説明するが何故、自分達にこんなモノを見せるのだろうか?
誠意だけとか思えぬ行動にアスランは戸惑うがソレを表には出さず口にも出しはしない
MSが並ぶ此処は自分にしてみれば見慣れている光景
人殺しの機械
だが
人を救う機械
命を守る為、奪う為
それは個人の捉え方なのだろうがアスランには決められなかった
自分は人殺しなのだと言える
しかしこの機体達は沢山の命を想いを護る為のものでもある

「争いが無くならぬから力が必要だと仰ったな、議長は」

「えぇ」

ポツリと出された言葉
この先の言葉がもう聞こえるようでアスランは瞳を見開く
その言葉を今、ここで言ってしまえば此処にいる整備士、パイロットの存在すら否定する事になってしまうかもしれない
誰かがそう捉えてしまえばそれは感染するかのように仲間内でオーブ代表への不信感が生まれてしまう
それを考えた上での発言なのだろうか?
否、この少女にそこまでの先読みはまだ出来ないだろう
真っ直ぐだから
真っ直ぐ過ぎて・・・周りが見えなくなってしまう

「ではこの度のことはどうお考えになる?
 たった三機の新型MSのために貴国が被った被害の事は!!」

「っ・・・代表!!!」

「だから力など持つべきではない、と?」

「そもそも何故、必要なのだ?
 そんなものが今更!!
 我々は誓ったはずだ!!
 もう悲劇は繰り返さない!
 互いに手をとって歩む道を選ぶと!!!」

「さすが綺麗事はアスハのお家芸だな!!!!!」

カガリに向けられる紅い瞳
その瞳に宿っているものをアスランは知っている
いや、知っていた

怒り
憎しみ
悲しみ

少年―シン―はオーブからの移住者であり
戦争で家族を失いザフトへ入隊した
力を身に付け戦火の盾になりもう自分のような犠牲者を出さないようにと
議長に告げられるシンの経歴に何もいう事が出来ない

自分も似ていると思ったのかもしれない
家族を理不尽に失い
もう悲劇を繰り返したくない、と戦火の盾になるのを望んだ
そしてきっと恐らく彼は余裕などないだろう
自分がそうであったように・・・













そして廻る運命
これが彼等の運命の始まり





新たに告げらられる事実
大切な人が眠る地の破壊
大切な人との再開
告げられる言葉
自分の出来る事の限界
行き場のない想い

交差する気持ち
悩み
そして決断し
運命は加速して動く

〜・to be continued・〜













誰かに縋りたいと思うがそれは逃げになってしまう
その思いがまた彼を追い詰めるのだろう

自分を責めることしか出来ない
本音さえも隠してしまう

本当は言いたい事も
やりたいこともあるはずなのに