「ハイネ―――――――――――――っっ!!」




悲痛な叫びは戦場に響きその場の空気を止めた

だが、その叫びは仲間と呼んでいた、親友と呼んでいた者達には
届かず、響かず
ただ無情にその場を去っていった

それが今の事実
また失われた命
また奪われた命

誰に…?
だれに…?
ダレニ…?

フリーダム―キラ―に…



































『ドラッグ〜Z〜』



































艦に戻ってから自分の部屋に戻るまでの記憶が朧気で、自分がどうやって着替えたのかさえ思い出せない
ただ、艦の雰囲気だけは覚えている

まるで葬式のようにシンっ…なり、重い空気に包まれていた
仲間が死んだ、という事実を受け止められずに呆然としていた者さえいただろう
仲間の死なら以前、ボギーワンと戦った時に経験していたが
あの時はあの後も悲しむ暇さえなく、日々を過ごしていた

だが、今はA.Aの意図が掴めない
戦場を荒らしに来たとも思える介入にミネルバのクルーはハイネの死の意味が分からないかのように、
誰も言葉を出さずに重い沈黙が辺りを包んでいた

「……………っくそ…」

港に着いた後、ハイネの遺留品の整理を自分から申し入れ、ハイネが持っていたモノを箱に入れていく度に
どうしようもない感情が押し寄せて言葉にならない
微かに視界が滲み、ポタポタっ―と茶色の箱に染みを作っていく

例え、僅かな時であっても彼が此処に存在していた証
少しでも自分の考えを否定せずに理解してくれていた一人
涙が止まらない…

流れ落ちる涙をアスランは拭うこともなく、ハイネが残した遺留品を抱き締めその場に崩れ落ちるように膝を付き、嗚咽を漏らした

出てくる言葉が見つからない
いや、出てくる言葉が一つしか見つからない

「…っごめ…ごめん……ハイネっっ…」


―お前の命を奪ったも同然のパイロットは俺の知り合いで―


「…ごめ…っあ……ぅ……ごめ、ん…」


―こんな事は二度と繰り返さないと決めていたのに―


「ごめん…ごめ、ん………ハイネ…」


―なのに…―


「………っ…ハイネぇ…」


―お前は…―















―もうこの世に存在しない…―















それからどれ程の時が経ったのだろうか
ハイネの遺留品を運んでいく兵士が遠慮がちに中にいるアスランに声を掛けるのとほぼ同時に、時が経つのさえ忘れぼんやりしていたアスランを現実へと引き戻したのだ

だが、そこにいるアスランは涙を流しているのでもなく
憎しみに表情を変えているわけでもなく、そこに存在していた

「すみません、意外と手間取ってしまって…」

「いえ、それではハイネ・ウ゛ェステンフルスの遺留品を回収させて頂きます」

「……はい…」

アスランは兵士よりも先に外へ出るとそこに居た赤服―シンとルナマリア
彼等は複雑そうに顔を歪め、ルナマリアにいたっては泣くのを堪えているのだろう

仲間の死

それはアスランだけでは無く他の兵士にも悲しみや衝撃を与え
その傷は浅くは無い

泣いてはならない
此処で泣いてはいけない
アスランはそう、自分へ言い聞かせるとグッと拳を作り
指の間からは微かに紅のモノが見える

恐らく、爪が食い込み皮膚を破ってしまったのだろうが
今のアスランには痛みなど感じなかった

それよりも痛いのは心
また仲間を失った痛み
フラッシュバックする友の死
あの時と似すぎていた
全てが似過ぎていた…

息が詰まり苦しくなる

だが、此処では…泣けないのだ

両隣には後輩がいる
二人も耐えているのに自分だけが泣く事など出来ないのだ
上司に当たる自分が泣いてはいけないのだ
此処で泣いてしまえば楽になれるだろう
だが、それと引き換えにシンやルナマリアは困惑し
『憎しみ』と言う名の感情が急速に育ってしまう

それは、軍の士気は高まるかもしれないが
憎しみで戦う戦闘兵士になってしまう可能性もある危険な事だ

それではナチュラル、コーディネーターの溝は狭まる所が余計に広がってしまう
アスランはそれだけは避けたかった
いや、避けなければならない

故に自分は此処で泣いてはいけない
故に自分は此処で憎んではいけない

自分を保ち
此処で立っていなければならないのだ










































それから、外へ出たのは特に理由は無い
ただ…一人になりたかったからなのだ

アスランは車を走らせ、徐々に上がっていくスピードに何も考えずにハンドルを切った
フ、と浮き出てきた感情に首を左右に振り苦笑をもらす

一瞬でも考えてしまった
このまま、スピードを出し続けて『死』を迎える事が出来たのなら
彼等に謝れる
彼等と共に過ごせるかもしれない、と…

だが、それと共に思い出される彼―イザーク―の言葉
前にもポツリ、と出してしまった事があるのだ
死んだら彼等に逢えるのか
死んだら彼等に謝れるのか、と…

言った後で口を塞いだが、それも後の後悔
傍にいたイザークの耳には確かに聞こえていたようで、微かにその髪が揺れるのを見た

『おい』

『な、に…?』

『貴様はまだ、本調子ではないからあまり刺激を与えるな。
と医師から言われているがコレだけは言わせろ』

俯き、返事をしないアスランの頬を撫でながらイザークは言葉を紡ぐ
それは酷く優しく
酷く悲しかったのを今でも覚えている

確かに悲しかった
しかし、イザークの前でその言葉を漏らして良かったとも思えるのだ
そのまま誰にも言わず一人で考えていたら『死』を確実に迎え入れていたのかもしれない
イザークがくれた『死ぬな』にはいろんな場面で言われた
それはアスランを色んな意味で助けてきたが
その時、言われた言葉も深く胸に染み渡り、響いた

『正直に言ってやる
死んで奴らに逢える、謝れるかもしれないと言うのはお前の自己満足に過ぎない
奴らは何の為に戦っていた?
ニコルは何を守って死んだ?
思い出せ

奴らはこのプラントを市民を仲間を守りたかったんだ
勿論、その守りたい人の中にお前も確実にいる
そして、ニコルもお前に生きていて欲しいと思ったから
あの時、あの場所でお前を守った
聞こえただろうニコルの最後の言葉を…確かに奴はお前に『逃げろ』と言った
それはお前に生きて欲しいからだ』

『イザー…ク…』

『そんなお前が『死』を望めばお前を守りたいを思っていた
お前に生きていて欲しいを思った奴らの思いはどうなる?
死んだ仲間の誰かがお前の『死』を望んだか?
『死んで欲しい』と誰かが願ったか?

………そんな事は誰も望んではいない
だから『死』を簡単に望むな
『死』を簡単に受け入れるな
苦しくても死にたくても生きろ
精一杯、生きて
生きて
それから奴らに言ってやれ
自分は幸せだったと
奴らが望むのはお前の『生』だ『死』ではない

それに今は…
いや、お前が望む限り傍にいてやる
苦しかったらそれを吐き出せ
死にたくなったら泣いて、泣き叫んで寝ろ

惨めなくらいに生きて見せろ
俺もそれに付き合ってやる…』

痛かった
悲しかった
しかし、嬉しかった

その日は惨めな程に泣いて
縋って
そのまま糸が切れた人形のよう崩れて寝たのだ

今でもその言葉に支えられている
いや、イザークがくれた言葉に殆どに支えられている
自分が望んだ答えをくれた
誰もが遠慮して
気を使って言えないような言葉をくれたのだ

それが酷く嬉しくて、愛おしい

アスランが苦笑交じりにフ、と視線を他の場所へ向ければソコにはよく知っている少女の姿
いや、女性と言ったほうがいいのだろうか
その女性―ミリアリア―もアスランに気付いたのか、名前を呼び
微かに驚きの表情を見せた

そこで取れたキラ達とのコンタクト
何処にいるのかは教えてもらえなかったが連絡はとってくれるようだ

しかし、教えられないのも当然なのかもしれない
自分は復隊して今はザフトにいる
彼等からしたら自分は『敵』と見られているのかもしれない
いや…裏切り者…か…

ミリアリアと別れた後もアスランはどうしてもミネルバに帰る気にはなれず、近くのホテルに部屋をとった
艦長には外泊するかもしれない…と言っておいてよかったと
微かに安堵の溜め息を漏らすが、心に圧し掛かるものが晴れたわけではない

晴れるはずも無い
深まる疑問
何故
なぜ
ナゼ
と、心が必死になって叫んでいる

痛い…と泣いている

逢いたい…と泣き叫んでいる

会いたい
逢いたい
あいたい
アイタイ

逢いたいよ…

「…イザーク…」

そのまま、アスランは意識を手離し、意識は闇へと堕ちてゆく
ゆっくりと襲いくる睡魔に抵抗する事もなくいつの間にか穏やかな寝息を立て、アスランの癖なのだろうか
意識は無いはずなのに手が何かを求めるように微かに動き
諦めたように動かなくなったのだ

誰を求めているか等、分かりきっている
分かっている、だから今は届かないというのもハッキリと分かってしまうのだ






























































それから時間は過ぎ、通信を知らせる電子音にアスランの意識はゆっくりと覚醒し
画面に視線を向ければ、指定された場所とキラ達とコンタクトが取れた
という内容だ

本来ならば直ぐに返事を返すのだが、身体が鉛のように重く
酷い倦怠感と喉の渇きに襲われていた
電子音にさえ苛々が募り、近くにあったクッションを投げ付けてしまう

アスランの苛々は募っていくばかりで一粒、涙が零れた
原因はわかっている
ドラッグを使用した者のフラッシュバックという現象なのだろう
それは身体の体調や精神不安、し始めた時の状況との酷似
その、どれかでも『フラッシュバック』という現象を引き起こす可能性があるのだ

そして、アスランはその三項目全てに当てはまっている
それを考えればこの倦怠感、苛立ち、喉の渇きは説明が付く
いや、前々から予兆はあったのだ
痛みを感じず
周りが見えずに戦闘に夢中になっていた

予兆は前々からあったのだ

そのサインに気付かなかった
気付こうとしなかったのは自分

気付きたくなどなかったのだ

アスランは重い身体を引き摺るようにベッドから降りると
顔を水で洗い、のろのろと部屋を後にした

行かなくてはならない
真意を聞き出さなくてはならない
何故、あの戦闘に介入してきたのか…

車を走らせて指定の場所へ向かうが空の色はオレンジ
こんな時間まで寝ていたのか、とアスランは溜め息を吐いた
自分の身体なのに何がどうなっているのか分からない
この眠気も後遺症の一つだと言うのだろうか?
あの時から…イザークと離れオーブへ来てからアスランの睡眠時間は不規則、不安定なものとなっていた

たった1、2時間しか眠れない時もあれば十数時間も寝てしまう時がある
その度に、頭痛が襲い
アスランは頭痛薬を頻繁にしようしていたのだ

本来ならば眠れない時は睡眠薬を使用したい時もあったのだが、
そういう類の薬はキラ、やカガリ、ラクスは極端過ぎる程にアスランから遠ざけていたのだ

そんな考え事をしている内に指定された場所までやってきたアスランの前の前にはつい数日前までは友人だと胸を張って言えた者達の姿
今は…まだ今は言えない
あの者達は自分の友人でとても大切な存在なのだと
ハイネが死んだばかりのこの状況ではまだ、言えない

「…キラ…」

「…アスラン…」

久しぶりに交わす言葉
彼等の言い分は分かる
分かるが、矛盾している
ラクスが撃たれそうになった、ラクスの偽者が現れた=議長が信用出来ない=故にザフトもプラントも信用出来ない
確かに議長の下にザフトという軍があり、プラントは成り立っている
ラクスが撃たれそうになった、ラクスの偽者が現れた=議長が信用出来ない
までは分からなくもない
それが人の心理というものだ

しかし、だからザフト全てがプラントの市民が信用出来ない
という考えにアスランは一瞬、憎しみにも似た怒りを覚えた
誰もが議長と同じ考えだと言いたいのか
皆が戦争を望んでいると言いたいのか
ミーアがいるからラクスは不要だとザフトがプラントの市民全てがそう言ったのか
ラクスの代わりをしているミーアがただ、悪戯にラクスに成り代わっていると言うのか

違う

ミーアはラクスが居ないから代わりをしてるに過ぎない
いつかは自分は必要とされなくなる事も知っている
それでも、ラクスが帰ってくるまでは…と代わりをしているだけだ
そして、プラントの市民もザフトも戦争を願っているわけではない

いや、中にはいるかもしれない
だが、そこには戦争をやめさせたいと
この世界を守りたいと切に願っている者も確かに存在するのだ
その人達さえもお前達は信用出来ないと言うのか

「戦って手に入れられるモノなんて何もないから…」

キラの言った言葉に思い出される先の戦闘
戦って撃って
それで何も手に入らない事をしりながら…
知りながらキラはミネルバの主砲を撃ち
ハイネの武器を…ハイネを殺した、と言うのだろうか

アスランの思考は混乱する
言っている事はわかる
しかし、ならば何故
何故、あの戦闘に介入しコロシタ…―

その後も紡ぎだされる言葉に眩暈さえ感じる
あまりに矛盾しているのだ
何故、そんな綺麗事が言える
まるで自分は誰も殺していないかのように

誰も自分の所為では死んでいないかのように

それではアスランの目の前で散っていった仲間は無い存在としてキラの中で扱われているのだろうか
初めから存在していなかった
だが、綺麗事を並べても今のアスランには正しいとは聞こえなかったのだ

思い出される死んだ仲間達
幸せだった
癒されていたあの空間を壊したのは目の前にいる張本人だと言うのに

キラは綺麗事ばかりを並べてアスランの心を揺さぶっていく
頭痛が酷い
身体が重い
苛々が治まらない

身体も精神も悲鳴を上げている
痛いと…―

「っ…綺麗事を言うな!!
お前の手だって既に何人もの命を奪っているんだぞ!!!」

「分かってる」

「………っ」

「だから、撃ちたくない。撃たせないで」

あぁ、なんて都合のいい言葉なのだろうか
その言葉はまるでアスランがザフトにいるから
今、自分達の傍に居ないから悪いのだという風にも聞こえてしまう

眩暈がする
気持ち悪い

苦しい…

それから、アスランはキラ達と別れミネルバへと帰っていくが
頭には先程の会話がグルグルと回り
その言葉の意味を必死で分かろうとしていた
しかし、どうしても理解出来ないのだ

何故、なんな事をしたのか
何故、今更…

アスランはソコまで思考を進めると施設近くで止まっているミネルバの近くへセイバーを降ろし
それを見て、駆け寄ってきたのかシンの姿が見えた

状況は分からないがあまりいい報告はなさそうだ

と、アスランは内心、溜め息を吐き
艦長達に促されるまま、施設の中へと足を進めていく

だが、中は薄暗く何がどうなっているのかはよく分からない
唯一の明かりは自分達の足元を照らし、他のモノはあまり照らせないでいるのだ

見る以外でも分かる事はある
この臭いは嫌と言うほどに嗅いできた

血の…臭い

咽返る程の臭いに慣れていないのか副官や艦長は時折、口元を抑えている
見えなくてもわかる
これ程の臭いは一人や二人ではない、もっと多くの人間がこの地で死んでいる

消毒液の臭いと混ざり、それも不快感を煽り吐き気を覚えてしまう
聞くだけでは地球軍の施設らしいが兵士の気配はなく
恐らく廃棄された施設だというのは間違いないのだろうが、副官が偶然転がしてしまったビンの先には子供の姿

何かのコードなのだろうか
身体中に付けられており、近くには血を流した子供
ここの研究員だったのか、大人の姿も見える

この悲惨な状況に確かに吐き気を感じるが、軍人がここで吐いてはならないのは痛いほどに分かっていた
これで根を上げていては軍人をして勤まらないのだ

此処に居るのは誰かをプラントを守る為
守る為に人さえも殺している
そんな軍人である自分達がここで吐いていては戦闘中、何の役にも立たない
ただ、そこに存在するだけとなってしまう

だが、この状況はあまりにも非道で悲惨過ぎている
まだ幼い子供に戦闘の知識を叩き込み
不適応者は廃棄…つまりは殺されるのだ

こんな行為を同じ、人間がしているのかと思うと虫唾が走る
こんな行為は許されるはずも無い
これは許されてはならない行為だ

運び出されていく遺体を視界の端に捉えながら
アスランは施設内の事を思い出していた
同時に、不思議でたまらなかった

何故、あんな事が出来るのだろうか…

「まったく訳わかりませんよ」

「シン…」

「コーディネーターは自然に逆らった存在とか言っといて
これは何ですか?
こんな事、許されるんですか?!」

許される事ではない
許されていい筈がない

シンの言葉にアスランは深く、そう思うが何故か言葉には出なかった
なんとなく…それは勘なのだろうがシンが欲しがっているのは返答ではなく
ただ、自分の疑問を聞いて欲しいだけなのだろう
だから、アスランは何も言わずシンの言葉に耳を傾け話しを聞いた

いい意味でも悪い意味でも真っ直ぐなシン
真っ直ぐな人間は勘違いされてしまう事もあるだろうが悪い人間ではないとアスランは知っている
自分のみたままを感じ
思った事を素直に言葉に出来る者
だから、シンは強いのだ
だが、それは当然リスクも背負っている事となる
真っ直ぐ故に人に利用されてしまう事もあるだろう
甘い言葉で利用されてしまうかもしれないだろう

だが、シンにはこのままで居て欲しいとアスランは願う
今の強さと優しさはとても貴重で素晴らしいものなのだから








































だが、その時入った通信によりシンとアスランは素早く自分の機体へと乗り込み
こちらへ向かってくる機体の場所を特定させる

「……これは…」

―ガイア―

ハイネの命を奪った機体
黒く『大地の女神』の名を持つ機体

「ぅ…あ…」

「アスランさん?!」

「……っ大丈夫だ…行こう」

身体が震える
感情が暴走しそうで怖い
フ、とアスランはシンの機体に目をやり軽く息を吐き出した
此処で自分は戦ってはいけない
今、此処で戦っては感情が暴走して恐らく憎しみのままにパイロットを殺してしまうかもしれない
自分はその連鎖を断ち切る為に来たのだ

自分が攻撃し、パイロットを捕獲すればいいのかもしれない
だが、震える身体はいう事を聞いてくれそうになく

叫んでいるのが聞こえる

これは自分勝手な行動なのかもしれない
自分が暴走しそうだから、とシンに任せてしまう
これは自分勝手な行動なのだろう

しかし、治まらないのだ
叫んでいるのだ

殺せ―と…

アレがハイネを殺した
アレの所為で…

「シン…アレを爆散させずに撃墜させるんだ」

「えぇっ…そんな…」

「気をつけろ、施設の破壊が目的なら何か特別な装備をしているかもしれない」

「分かってます!!」





アレがハイネを殺した

―煩い―

アレの所為でハイネは死んだ

―うるさい―

憎いだろう?

―ウルサイ―

本当は殺したい程に憎いんだろう?

―黙れ!!―





交差する二つの感情
多重人格者なのだろうか?と自分で錯覚してしまいそうになるほどに全く正反対の感情が存在しているのが分かる

シンがガイアの自由を奪い
ガイアが堕ちてゆく光景を眺めながら、アスランは微かに安堵を覚えた
コックピットの装甲は抉られてはいるがパイロットに命の別状はないだろう
自分がやればもっと奥まで抉ってしまっていたかもしれない
下手をすれば殺していたかもしれない

だが、コックピットの抉られた部分から見えるのは少女の姿
あの少女はたしか、あの時シンと一緒にいた少女ではないだろうか?
アスランは朧気になっている記憶を引きずり出し、金髪の少女をどこか冷めた感情で見つめていた























分かっていてもどうしても抑えられない感情があるんです
分かってはいるんです

コレは戦争だから
自分達は軍人だから

それでも抑えられないんです

そんな自分が嫌いで、怖いと思うけれど
それでも、抑えられなくて…

それが友人だと思っていた者に
また繰り返しかのように起こった悲劇が…

とても苦しくて
とても痛いんです