※警告※ 今回はリスカ表現があります 苦手な方は見ない事をおススメいたします 見た後での苦情は受け付けませんのでご注意下さい リストカットというのを、どれ程の人間が理解し 又、それが発生した原因を知っているのだろうか…? そして、それの対処法をどれ程の人間が分かっているのだろうか…? リストカットとは、自分の腕などを刃物で切りつける自傷行為の事である 手首(wrist)を切る(cut)事から造られた和製英語 略して『リスカ』 病名は『リストカットシンドローム(手首自傷症候群)』と医師等の間では呼ばれている 此処では『リスカ』と略して言わさせて頂こう リスカの行為の目的は自殺では無く『自己の再確認』や『ストレス解消』であり 実際、死に至るケースは極めて稀である しかし、定期的に血を流す行為は心臓に負担を与え 心臓が弱まり、肥大してゆき、弁に穴が開き フ…と何でもない事で急に心停止に至ってしまう事はあるのだ 現在ではリスカをする要因が上げられており 今はリスカをしていなくても、それに当てはまる人物は決して少なくはないのだろう ・周囲の目を引こうとして行う 幼少期の分離不安は家族に心配されない、見てもらえない 見捨てられた感による所が大きい そういった感情、状況を打破したいが為にわざと傷を付け 心配してもらいたい。という欲求を満たす為に行う ・攻撃衝動を自分に向ける 自身も攻撃衝動を他人に向けられない その衝動を自分に向ける時に行う 「自分が悪い」「自分が許せない」という感情に背を押されるように、「自分を周囲が理解してくれない」という苛立ち そういった、怒り、衝動を誰にも向けられず自分の手首を切ってしまう 又は手首をその周囲の人達に見立てて行う場合もある これは女性に多い傾向だが、男性も少なくは無い ・自己の再確認 自分が今、どうして此処にいるのか 此処に存在していていいのか 此処にいる必要性はどこにもないのではないだろうか? そういった感情を否定する為に痛みを自身に与え 流れる血を見て、自分はまだ此処に存在している 此処に存在していていいのだ。という安堵感を自身に与える為に行う そしてアスラン・ザラという人物はこの三項目の内 最後の二つに当てはまってしまうのだろう 『ドラッグ〜[〜』 医務室で眠る金髪の少女―ステラ― 先程、目を覚ました時には暴れだし、シンが止めたらしいが それでも危険と判断されたのだろう ベッドに縛り付けられるように… いや、実際に縛り付けられているのだが こんな少女があの機体―ガイア―に乗っていたとは、自分の目で確認しているとは信じがたい 最初訪れた時以来、此処には来ないようにと思っていた しかし、気が付いたら医務室の前に来ており 中を覗けば軍医が少し席を外すから…とステラの監視を任されたのだ アスランはフェイスでもある 断る事も出来たのだが、アスランの性格上、断る事が出来なかったのだ 穏やかな寝息を立てて眠る少女 ハイネを殺した少女 無意識の内にアスランの手はステラの首に掛かっており 微かに力が篭る 後、少し 後、少し力を加えれば少女の命は奪われる 後、少し… 「…ん…く…ぅ…」 「………っっ」 ステラが苦しげに声を出すと弾かれたようにアスランはベッドから離れ 自分の手を見つめ、その表情は自嘲的に歪んでいる 微かに漏れる笑い 同時に襲われる嫌悪感 憎しみはイケナイ 憎んではイケナイ と、自分にどんなに言い聞かせても 心の奥底ではこんなにも醜い感情が渦巻いている 「………ははっ…くっ…はは…」 自分はこんなにも矛盾した生き物なのだと思い知らされる 手には力みすぎて震え、また少女に手を掛けてしまいそうだ 「あははははっ…ははは…っっ」 アスランの瞳からは涙が溢れるが口元は笑み模り その場に崩れ落ちた 無抵抗な人間 そんな彼女を自分は殺そうとした 殺していなくても確かに自分は少女に対し憎しみを持ち 殺意を抱いた この行為は捕虜に対する暴行を同じ行為 許される行為ではない いや、少なくともアスランはこんな事した自分を許しはしないのだろう のろのろと立ち上がり、部屋を後にしようとドアに近付く 後で他の用事が急に入ってしまったと言えば不審には思われないだろう 元々、この少女の監視はなくてもいいようなものだ あれから大分、身体も弱まり心なしか顔を青褪めている 抵抗しようにも、もうそんな気力、体力は残っては居ないのだろう 「………っ…ぅ……ネ、オ………シン…っ」 涙を流しながら誰かの名前を呼ぶ少女に 出て行こうとしていたアスランの視線が少女を捕らえる 彼女にも守りたいものがあったのかもしれない 彼女にだって幸せな空間があったのかもしれない 彼女にだって大切な人がいたのかもしれない いや、いたのだろう 涙を流し、求める人物が… 傍に居て欲しい人物が… 存在するのだろう… それなのに自分は何をしようとした…? ただ、自分の憎しみの為だけに少女を殺そうとした… 「………………っう…」 アスランはどうしようもない吐き気に襲われ 自分の部屋へと走る 走る事で吐き気は悪くなる一方だが、それでも此処に居るよりはマシなのだ こんな不様な姿は誰にも見せられない、と思ったのだろう 途中、擦れ違う人物にさえ気付かない程にアスランの思考は混乱していた 「……アスラン…さん…?」 酷く顔色の悪い上司に声を掛けるが、その声は届いていないのか そのまま走り去り、アスランは自分の部屋に駆け込んでいったのだ 状況の掴めない人物―シン―は後を追おうかとも考えるが それよりも日々、身体が弱っていく少女が気になるのかシンは足を医務室の方へ向けて歩き出した 確かに、あの少女の容態は日々悪くなるばかりで多少の知識しかないシンでもからり危険だというのは分かってしまう 誰も知り合いのいない艦内では不安で気持ちの面でも弱っていっているのだろう そして、知り合いは自分しか居らず シンはそんな少女の傍に少しでも居てやりたかったのだ それで少しでも不安が解消されるなら それで少しでも楽になってくれるなら…と… シンは時間があればそれが許す限り、医務室へと通っていたのだ 丁度その頃、アスランは部屋へ戻り洗面所へと駆け込んでいた 吐き出しても吐き出しても嗚咽感は治まらず自分への嫌悪感は募っていくばかりだ あの少女を少なくともシンは大切に思っているのだろう そしてあの少女も僅かでもシンを信頼しているように思える あの少女にもいるのだ きっと自分と同じように絶対的な存在が 信じて止まない存在が… それを自分は… 「あ…っう…かはっ………あぅ、え…」 口の中が気持ち悪い だが、それ以上に今、自分の中に存在している負の感情が気持ち悪い 吐き気がする… その時に目に入ってしまったのは剃刀 今時、軍の洗面所に剃刀など古いようにも感じられるが 一部の人間が言うには電気剃刀や普通の剃刀よりも切れ味が良く 使い勝手もいいのだ。とアスランは記憶していた 震える手でそれを持つと僅かに感じる重さと冷たさ 気が付けばソレは アスランの手首に一つの傷を付けていた 赤い糸のような傷がアスランの手首に存在し 流れる血 嗅ぎ慣れている筈 見慣れている筈 それなのに、アスランの心は酷く安心しているように感じられたのだ まだ、自分は此処で生きている まだ、自分は此処で存在している 流れる赤い血に 生きているという実感に 酷く安心してしまったのだ プクっ―と傷口に玉のような塊が出来た後で流れる血 血で今更、安心してしまうのは可笑しい事なのかもしれない とアスランは自嘲にも似た笑みを浮かべ その場に崩れた 何度も見てきた筈の血 それが自分か他人か という違いだけでこんなにも違うのかと笑ってしまう そこで途切れた意識 深い深い意識の底に堕ちてゆく感覚にアスランは抵抗もせずに身を委ねていった だが、死にたい訳ではない それでは彼との約束を破ってしまうから… 死にたいのではない 生きる実感が欲しいんだ このゲーム感覚に襲われる戦場で 此処で生きている実感が 此処で存在している実感が 「…イザ………く…」 ―パシュっ― アスランの部屋のドアが開く音がすると少し遠慮がちに声が聞こえるがそれに応答はない 尋ねて来た人物―シン―は先程のアスランの様子が気になって来て見たのだが 応答は無く部屋に気配すら感じない さっき擦れ違った時にあんなに気分が悪そうだったのに、もうどこか行ったのだろうか…? 一瞬シンは部屋を出て行こうとするが、奥の方 洗面所の方から水の流れる音に足を止め、そちらの方へと足を進めるが他に物音がしない 不審に思ったシンは進める足のスピードを上げ 勢い良く開けたドアの向こうでは 流れっぱなしの水に 倒れているアスラン 「……っアスランさん!!」 「………っっ…」 倒れているアスランを起き上がらせ、だらん…と垂れ下がっている手には剃刀とその反対側の手には傷が出来ており 血は止まってはいたが、生々しい傷跡につい先程、付けられたのは直ぐに分かってしまう 状況と自分の知識で結びつくものでシンにはアスランが何をしていたのか悟ってしまった 普段の生活ではそういった知識は必要はなかったが アカデミーで教えられていたのを思い出したのだ 軍人になり、それぞれ隊に配属された後で新人を待つものは厳しい現実、戦闘 薄い現実感 それ故に精神が耐えられずにリスカを行ってしまう者や果ては自殺をしてしまう者がいる。と教えられていた 例え僅かでも知識があったにしても、自分の身の回りでこういった事に出くわさなかったシンは動揺の色が隠せないが このままでは傷口から、ばい菌等が侵入してしまい膿んでしまうかもしれない とアスランを抱きかかえ、そのまま来た道を戻り走って医務室へと向かう 何故かなどシンには理解出来ない 何故こんな事をしたのか まったく理解出来ない… 「すみません!!」 「なんだ?シン…此処は医務室だ静かに入れ」 「そんな事、言ってる場合じゃないですよ!!」 「……どうした?」 シンの腕に抱かれ、ぐったりとしているアスランに唯事ではないと思ったのだろう 軍医は手早くシンにアスランをベッドで寝かせるように指示をすると、消毒液やガーゼを取り出し 先ずは傷口を消毒し それ程、深くは無かったのだろう 縫う必要はない、と判断した医師はシンにその時の状況を聞くが シンも混乱しているのだろう それに状況と言われても説明出来る筈がないのだ ただ、擦れ違ったときに気分が悪そうだったから後で部屋に見に行ったら倒れていた という説明ぐらいしか出来ない 「………そうか…それなら本人に聞くしかない、か… だが、本人が言いたがらないか…それか…」 「…………?」 「……傷を付けた時の状況を覚えていないかもしれない…」 「………リスカ…です、よね…」 「あぁ、正式名称は『リストカットシンドローム』又は『自殺前症候群』とも言う」 「…………でも即、死に繋がる事はない…ですよね…」 「シン…アカデミーで習っただろ…?」 「それは…あの…」 その時はそれ程、重要視していなかったシンはその時の教官の話など聞いていなかったに近いのだ 流石にそれを言う事ができないのだろう シンが黙ったまま気まずそうに、俯いていると 軍医はあからさまな程に溜め息を吐き説明をしだした 確かにシンがアスランのこの状況を見てしまったのであれば これからアスランに対して気を使うかもしれない 故に正しい知識を身につけていてもらわなくては、アスランを下手に刺激してこれ以上に酷い状況を作ってしまうかもしれないのだ 「いいかよく聞いておけ、このままコレが癖になるとやっかいだ 血が抜ける事で身体は貧血状態になり心臓自体が弱くなって急に心停止の可能性もある」 「………そんな…」 「詳しい原因はよく分かってはいない だが、殆どの者がネガティブな感情で行ってしまう 私としては身体よりも心の治療を行いたんだが…生憎、専門ではないからそう簡単にもいかんだろう… あ、シン…お前の性格は猪型だからな、アスランを下手に刺激したり気を下手に気を使ったりするなよ!!」 「下手下手って!!………まぁ、そりゃそうだけど……」 シンとて一応、自分の性格は分かってはいるのだろう 直そうと思っても中々、直せないのが今の現状だ 確かに猪突猛進な性格は色んな面でマイナスだとは思うが、それでも思った事を口にしないと気持ちが悪い 前に少しでも直そうと我慢していた時期もあったが、仲間達からも「シンが我慢してるのって気持ち悪い」とさえ言われてしまったのだから シンはまだ、意識の戻らないアスランを見てフ…と思った事があったな と思い出していた 戦闘の時は確かに厳しい人物だが 普段は柔らかい物腰 自分の意見は決して曲げない頑固な一面も持ってはいるが 自分とは違いちゃんと他の人の意見を聞いてから自分の意思をハッキリと言うのだ 確かに、最初の頃は気に食わない プラントから逃げ出した臆病者まで思ってしまっていた しかし、今ではそういう一面を羨ましく思い そして尊敬している 認められたいと思っているのだ 「っ………う…」 「アスランさん?!」 「……………っ…あ……イザー…く……」 「…え?」 涙を流し、誰かの名前を呼ぶ 許しを請うように 縋るように 涙を流して誰かを求めている 誰か… 「『イザーク』………ジュール隊の隊長か…」 「え?!」 「おまえなぁ…破砕作業の時に一緒だったんだろ…?」 「それは…そうですけど…」 「まぁ、ジュール隊の隊長ならアスランとの同期だし分からなくもないがな…」 ジュール隊、隊長『イザーク・ジュール』 アカデミーの成績でもアスランの次に必ずいた人物 会った時も軍則に厳しそうで 本人から出ている硬質な空気に自分も思わず軍服をすぐに直し、背筋を伸ばして教科書の手本のような敬礼してしまったほどである それ程、硬そうな人物とアスランではどうも繋がらない シンは首を傾げるばかりだが、今アスランが求めているのは確かにあの『ジュール隊長』なのだ 「ぁ……っ…シ、ン……?」 「目が覚めましたか?」 「あぁ……此処は…」 「覚えてないんですか? 部屋で倒れてたんで医務室に連れてきたんです」 「そうか…すまない…」 アスランは少し掠れた声で、どこを見ているのか分からない瞳で天井を見ている 誰を考えているのだろうか? 何を思っているのだろうか? どれ程のものをその背に背負っているのだろうか? シンは言葉には出さなかったが、それを聞きたかったのは確かだ 常にアスランは、ここにいる者とは線を引いているようで この艦の誰かにでも本音を晒した事があるんだろうか いや、確かにアスランがこの艦に着てから日は浅い まだ本音を出せないのかもしれないが、こんなになるまで我慢していたのかと考えると、どうしようもない 怒りにも似たモヤモヤとした感情に襲われてしまう 「アスラン…少しいいか…?」 「あ、はい…」 「その手首の傷…付けていた時の事を覚えているか?」 「え……ぁ…いえ…」 「そうか、では最近ちゃんと睡眠はとれているか?」 「……………最低限、は取れていると思うんですが…」 「そうか」 それからもいくつかの質問をしているが、アスランの返事はあまりいいものではない 返事をしずらそうなのは、シンがいる所為かもしれないが シンに出て行け、と言った所で断られるのがオチであろう しかし、やはり体調不良を知られてあまりいい気がしないのは当然の事であり、しかもそれが仲間であれば更に意識をしてしまうのかもしれない 「アスラン、君に一応だが薬を渡しておく 勿論、使用量守って使えよ 薬も正しく使わなくてはただの毒でしかない」 「はい」 「じゃあ… 精神安定剤と入眠剤だ」 手渡された薬 それをジッ―と見つけた後でアスランは微かに苦笑を漏らした だが、目の前にいた軍医もシンも丁度、視線をアスランから逸らせ 気付いてはいなかったが、シンが何か嫌な予感を覚えたのもこの瞬間であった 「本当にもう大丈夫なんですか?」 「あぁ」 「本当の本当の本当にですか?」 「本当だよ 心配掛けてすまなかった…」 「べ、別に心配なんか!!…」 ―してましたけど…― 小さく呟かれた言葉にアスランは笑みを浮かべながら自分の失態を思い出していた 知られてしまった 切った瞬間を覚えていないとはいえ、軍医や…シンに知られてしまった事にアスランは胸の内で深い溜め息を吐き 自分の身体を叱咤したのだ これ以上の失態をシン達の目の前で晒してはいけない これは自分の問題であり シン達に余計な心配を掛けてはもしかしたら戦闘中にも支障をきたしてしまうかもしれない それも避けたいのだ あれからアスランは部屋へ戻る。と寝ていたベッドから立ち上がり シンも軍医もまだ此処で寝ていてもいいと促すのだが アスランはそれを丁重に断り、自分の部屋で休む と言ったのだ 軍医もアスランの意思を尊重するようにそれを受け入れたのだが シンはせめてアスランの部屋まで送らせろ!!と言い張り アスランの部屋へ向かっている最中なのだ 「俺に構ってるより、シンはあの少女の所に行きたいんじゃないのか?」 「ステラは今は寝てるし…それにステラも心配ですけど………」 確かにステラも心配だが、隣で歩いている人物も心配でしょうがないのだ 辛いときでも気丈に振舞っている 辛い事も外には出さずに自分の中で押し込めて 辛くても自分の足で立って アスランのストレスや負担の原因には自分も確かに含まれているのかもしれない しかし、それでもシンには、ほかっておく事が出来なかったのだ だが、アスランが求めていたのはシンではない事はシンにも分かっていた 朧気な意識の中で呟かれた人物をアスランは求めているのだろう それ程、深い仲なのか…と思うと 何故か苛立つ心にシンは戸惑った アスランは上司であり、仲間であり それ以上でもそれ以下でもない そう、思っているのだから シンが苛立つ心に疑問を抱くのは当然なのかもしれない しかし、シンは苛立つと同時に生まれた感情もある 強くて厳しく優しくて…でも弱くて脆い それを目の前で見てしまったシンに生まれた感情 弱いなら自分が守ればいい そう思ったのだ 確かにステラは大切だ守ると約束した だが、目の前の人物も守りたいと思ったのだ それは確かな気持ち 「シン…?」 「あ、何でもないっっ…です…」 急に黙り込んでしまったシンを不審に思ったのだろう アスランが声を掛けるとシンは弾かれたように顔を上げ 想像以上に近いている顔に驚くシンだが、そんな事を知られたくはないのだろう 視線を逸らせ、拗ねた子供のように少しだけ口を尖らせているようにも見える アスランはきょとんとしているが その場の空気にシンが耐えられなくなったのだろう グルリと身体を来た道に戻すとアスランに背を向ける形になり アスランからは見えないがシンの頬は微かに赤く染まっている 「すみません…お、俺…やっぱステラの所に戻ります!!」 そう言い放つと返事も聞かずに走り出したシンにアスランは気分を悪くするわけでもなく ただ瞳を細め、何も言わずに自分の部屋へと再び足を進めた 今はこれでいいのだ あの少女はこれで安心して目を覚ます事が出来るのだろう 目を覚まして安心出来る相手がいればそれは酷く心地の良いものとなるのをアスランは知っている 少女がこのまま…というのは恐らくは無理だろうから せめて少しでも穏やかな時間を過ごせれば、とも思う 実験の為にそういった施設へ送られるか… 此処にいてはあの身体はそう長くはないだろう どちらにしても、あの少女にいい未来が待っているとは思えない だから少しでも安心を…穏やかな時間を… そう思ったのだ 少し前まで、憎んで殺そうとしていたのが不思議な程に 今は安定している あれは薬の副作用からくる精神不安だったのか それとも、リスカで此処にいると実感出来たお陰で 心に冷静さを取り戻せたのかはアスランには分からなかった 今は、分からない 分からない事ばかりなのだ 「……………イザーク…」 ―この混乱している現状で俺の求めている答えをくれるのはきっと、お前だけなんだろうな…― 静かな空間でアスランの声だけが響き 静かな空間に吸い込まれていった 答えがまだ、見つからないんです こんなに探しているのに こんなに求めているのに まだ見つからないんです でも、その答えを知っている人は知っていて その人の傍にいれば自分も答えが分かる気がするのに 今は傍に行けないんです でも それでも、逢いたい それは矛盾した気持ちですか…? 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