時は待ってくれる事は無く 残酷に時を刻む そこに存在する人間達に進め、と急かすように… 表面上の穏やかさ等すぐに壊れる 綺麗過ぎる現実は嘘のように恐ろしく 醜い現実は人に優しさを欠けさせる 一番良い世界 それは美しくも醜く 残酷さと平和を持ち合わせ 汚さも美しさも曝け出す そんな人間らしい世界 それが誰もが安心出来る世界ではないだろうか? 美しすぎるだけでは窮屈だ 汚いだけでは進めない それが人間という生き物の心理 そして一人の青年は願う 望むのはお伽話のような世界ではない 人間らしい人間の世界なのだ!!と 時は進む 残酷に 優しく そして人を進ませるように… 『ドラッグ〜]Y〜』 無事にボルテールと合流出来たイザーク達であったが そこで出迎えてくれたのはイザークの部下であるという女性―シホ・ハーフネンス―であった 目上への言葉遣い 隊長への報告、対応 敬礼の角度までをも完璧にこなす姿に アスランは感心の眼差しを向けるが その表情に柔らかさは無く 状況は良い方向には向いていないのだという事を表していた アスランに挨拶の言葉を向けてから イザークに報告する姿は感心に値するが その内容にはイザークでなくとも その眉間に皺を寄せ、溜め息を吐くしかない 以下はシホ・ハーフネンスの報告内容である 某日、議長がメディアを利用し全世界に向け本当に戦うべき敵、自分の考えを 発言をした所『ザフト』を支援するラクス・クラインもそれに賛同したのだが オーブからの割り込み中継が入り『オーブ』のラクス・クラインが登場したのだという 『ザフト』のラクスは議長の考えは正しいと発言し 『オーブ』のラクスは議長の考えは間違っていると発言した 世界は混乱したが 殆どの者は『オーブ』のラクスは偽者 『ザフト』のラクスが本物だと議長を支援しているが あくまでオーブは議長の考えを否定し 最後まで抵抗を続けている そして今、現在、下されている命令は 月の裏側にて地球軍の動きあり しかし、プラントには反対方向に位置している為、危険性は薄いと思われるが その途中、プラントへ向け不審コロニーを発見 以下のポイント近くにいる隊は至急、その不審コロニーを停止させよ 「また、随分と大変な事になっているものだ」 「イザーク…これは…」 「分かっている。ジュール隊はこれよりその不審コロニーの停止作業に向かう ………アスラン、お前も出るか?」 「あぁ、俺が大人しく待っていられるような性格じゃ無い事はイザークが一番よく理解してるだろ?」 「まったく頑固な奴だ」 「お互い様。だろ?」 「…ふん。まぁいい だが俺が無理だと判断したら直ぐのお前を下げるからな その時はきちんと命令に従えよ」 「分かっている」 遠くを見据えて返事をするアスランに恐らくは 一度、戦場で出れば終るまで下がらないであろう そんなアスランに向かいイザークは軽く溜め息を吐くが 今、最優先すべきはプラントを護る事 アスランの身体の事もイザークにとって最優先事項であるのは変わらないが これでプラントに何かあればアスランはまた心を痛めるのだろう ならば、プラントを最優先で護る事もアスランを護る事に繋がっている イザークはそう考えており 帰ったばかりの疲れた身体ではあったが パイロットスーツに着替え、自分の専用機へと向かってゆく アスランの専用機は当たり前であるがジュール隊に置いてある筈もない だが普通のジンであったとしてもアスランであれば乗りこなし 期待以上の働きをする事をイザークは知っている しかし、それをあえて口にする気はない 期待の言葉はアスランに余計なプレッシャー、ストレスを与える事もイザークは知っている 十分過ぎる程に今まで色んなモノを抱え込んできたのだ 自分の傍にいる時くらいは自由に動かせてやりたいと思う イザークは自分の専用機―スラッシュザクファントム―に乗り込むと 内臓されているカメラでアスランが乗り込んだザクを写すが 話しかける事はせず、問題の無い事だけ確認すると静かに前を見据え その表情は厳しい軍人の顔へと変化していた 護るべきものはプラント 護るべきものは罪の無い人々 今、こうしている今でも何も知らぬ市民はプラントの中で 何も知らずに微笑み合っているのだろう 軍人が存在するのは戦う為ではない そんな人たちの笑顔を失わせない為に存在する 大切な者を護る為に存在している 『発進どうぞ!!』 「イザーク・ジュール発進する」 『続いて、発進どうぞ!!』 「アスラン・ザラ出る!!」 これが最後の戦いになればいい それはアスランだけではなく誰もが望む願い その願いを叶わせるべく、アスランは痛む身体に鞭打ち宇宙を舞う アスラン達が指定されたポイントに向かうと、そこに存在していたのは筒状のコロニー その奇妙な形に誰もが同様を隠し通す事が出来ないが命令はソレを援護する艦体の『破壊』と『停止』 ジュール隊だけでは無く管理室とてこの筒状のコロニーがどう使用されるかは不明であるが プラントに仇名すモノ 危険なモノだという事は事実だ その事実さえあれば迷うものは無い 迷ってはいけない、このコロニーを使用された時に出てしまう犠牲者それだけは避けなくてはならないのだ 「停止作業を急げ」 隊長であるイザークの言葉にジュール隊の面々は気合を入れなおすかの様にに返事を返すと停止作業に入る だが作業途中であるその時に感知された高圧エネルギー 急いで下がるよう命令を出したイザークであるが、部下の命は守れたものの その代償はあまりにも大きい 筒状のコロニーは高圧エネルギー、―レーザービーム―を曲げる事が出来る兵器であり その先にあるのは軍施設など存在しない、一般人が住んでいるコロニーであった イザーク達の作業のお陰で当初の目標とされていた中心部への攻撃は避けることが出来たが あの一般コロニーにどれ程の人間が生きていたのだろう 死ぬ事は無かった筈の人間達 ただ、平和を願い 自由を望んだ人達 それを思うと何故、もっと早くこのポイントへと到着出来なかったのか…!! 何故、護衛艦を早く殲滅する事が出来なかったのか…!! そればかりが部隊の心に渦巻いた だが、後悔ばかりもしていられない 自分たち以上に悲しいのは無念に死んでいった彼等であり又、その家族である 自分たちが悲しむのは後だ 今は次の犠牲が出ぬ様にこの兵器を破壊する 「急げ!!次の攻撃が来る前に何としても破壊するんだ!!次の攻撃があればプラントは終わりだ!!」 それは叫びのような願い そして、曲げようの無い真実 敵の攻撃のチャージ完了までの時間は不明だ しかし、分からずとも次の攻撃までに『破壊』しなくてはならない そうしなければプラントは確実に滅び、コーディネーターは住む場所を再び失うだろう 破壊する!!それは願いではない必ず実行しなくてはならない任務である これ以上の犠牲を出さぬように これ以上の悲しみ、憎しみを生まぬように だが、焦れば焦る程に時間が惜しくなり 筒状の兵器を壊しては次 壊しては次。の作業が続き、どれ程、破壊すればいいのか分からなくなってきてしまう 焦ってはいけない 焦りはミスを生んでしまう そんな事は軍人であれば嫌な位に分かっていた しかし今はその理解が感情に追い付いてゆけないのだ 同胞を…育つ場所を失ってしまった それは、どんなに振り払おうとしてもユニウス・セブンの悲劇が頭から離れず 不甲斐無さから拳を握り締めるしかない それから暫らくして入ってきた報告―月基地の破壊―を聞いた時はどれ程、安堵の息をもらしたかも知れない だが、それと同時にアスランは思ってしまった 自分は今、ブルーコスモスであろうともナチュラルが死んだ事に安堵してしまったのではないか?…と そんな事はないと頭を振っても脳裏にはマイナスな事しか浮かばず 収容された後でも機体から降りる事が出来ずにいた それは次の攻撃への恐怖からではない 恐らく泣いてしまいそうな表情をしてしまっている自分を隠す為 今、部隊の兵は皆、安堵している プラントが壊されずに済んだ。と その雰囲気を壊す資格が自分には無い それ故にアスランはコックピットから出る事が出来なかったのだ アスランがコックピットで自分の表情を元に戻そうとしている時 声を掛けてきたのはコックピットから出てこないアスランを心配した整備士では無く 共に戦場を舞い、既に隊長として部屋に戻っているはずのイザークであった 「おい、どうした? 久しぶりのザクで緊張でもしたのか?」 まるで鼻で笑うように話しかけてくるイザークに不思議と嫌な気分がしないのは その言葉が彼なりの優しさだという事を理解しているからだ 恐らくイザークにはアスランがコックピットから出てこない理由を察しているだろう しかし、それをあえて口には出さずに アスランの言葉が返しやすいように皮肉が篭った言葉を投げるのだ 「………ただ…ちょっと疲れた。それだけだ」 「そうか。それならいい…… アスラン…。俺は安心したんだ… 月基地、レクイエムと言われる兵器が破壊された。という報告を聞いて安心した あぁ、プラントを守れた 全てが解決した訳ではないが今の所はこれ以上の犠牲を出さずに済む。と つまり、俺は安心したんだ ナチュラルが死んだ事に… そこにはプルーコスモスの首領もいたらしい。 ソイツが死んだ。俺はそれに安心したんだ もう無関係なコーディネーターが殺されずに済む。と 殺されるのは軍人だけでいいからな…」 「っっダメだ!!…そんな事…言うな……ダメだ。イザークが死んだら…お、れは…」 「馬鹿者。誰が俺が死ぬと言った 俺は死ぬ気は全く無い。むしろ図太く、不様なまでに生き抜いてやる 俺が言った殺されるのは軍人だけでいい。というのは例え話だ」 「例え話でも……嫌だ… もう何かを失うのはゴメンだ…」 「そうか。それは俺の言い方が悪かった… なら言い方を変えよう アスラン。俺は月基地が破壊され、安心した そんな俺を冷酷だと、非情だと、ナチュラルを批判している。と思ったか?」 「そんな事、思う訳がない お前はそんな奴じゃない。それは俺が一番よく分かっている!!」 「そうか。なら俺もそうだ」 「………え?」 「お前の考えている事を当ててやる お前はこう思っているはずだ。月基地が破壊され安心した しかし、それはナチュラルが死んだ事に喜んでいるのではないか…?とな」 「………それ…は…」 「俺も同じ事を思った だがお前は言った俺はそんな奴ではない。と 俺がそんな奴ではないなら、お前もそうだろ… あの兵器が破壊されて安心しているのはお前だけじゃない皆そうだ そして見方を変えて見ろ お前も俺も喜んでいるのは兵器を破壊された事ではなく ナチュラルが死んだ事でもなく プラントを守れた事だと… そう思えば、また立ち上げる事が出来る そう思えば、また信じる事が出来るだろう…?」 「…イザ…くっ」 「分かったらサッサと機体から出て来い。まだ此方へ着たばかりなのに体調を崩す気か」 プシューっとコックピットが開き 中からは泣きそうであるが、少しだけ笑顔を浮かべているアスランが立っていた イザークは苦笑しながら溜め息を吐くと、アスランに対し手を差し出し 手を取り、身体を自分の元へと引き寄せると自然と重力の弱い空間でその身体を受け止める事となる 「ふん。情けない顔だな」 「五月蝿い。」 アスランは一筋の涙を流しながらも力強くイザークに抱き付き 本当に心の底から安堵した あぁ、ジュール隊に…イザ―クの元に付いてきて良かった…と その頃、A.Aも姿を現し、行動へと移していた そしてラクス・クラインは語る ―勝ち取る未来もあるのだ―と だが、此処で生まれる疑問 先の戦いでラクス・クラインは何と語り 何を願いながら先の議長―パトリック・ザラ―に立ち向かったのか… 記憶が確かであれば先の戦いでは、正反対の事を語っていたのではないだろうか? 戦いで勝ち取る未来など本当に幸せなのか…?と 戦って得られる幸せは本物ではない…と そう語り、ソレを信念にパトリック・ザラに立ち向かっていったのではないのだろうか? この事実から分かる通りラクス・クライン 否、クライン派は己の行動が正義 己の言葉こそ真実、己が全てなのだ だから迷う事無く戦える だから真っ直ぐに信じている 間違いを間違いだと知る事も無く… その行動、言葉が友人だと語る人物をどれ程、追い詰めているかも気付きもせずに… 「誰もが生まれたその時より決められるのです それは決して戦いの無い世界でしょう それは遺伝子が諦めてしまっているから… 遺伝子が全てを決め、それは無駄な事なのだ。と言い聞かせるから… それがデスティニー・プランなのです」 破壊のない世界 全てが決められている世界 それは確かに戦いも無く、平和な世界なのだろう だが、それを代償に人々は失うモノもある それは夢だったり希望、向上心 それに賛同出来ないA.A そこまでは誰であろうとも理解出来るだろう そしてA.Aに賛同するだろう だが、A.Aは決定的なミスを犯してしまうのだ それは話し合う。という事 確かに危険は伴うだろう しかし、彼女達はそれを承知で、それを覚悟で戦場へと再び戻ってきたのだろう ギルバートは言う ブルーコスモスはテロリスト。話し合う余地も無い。 だが、A.Aはどうだろうか? 公式に話し合いの交渉をすれば、話し合う事は不可能ではないのではないだろうか? A.Aにはカガリ・ユラ・アスハというオーブ代表とラクス・クラインという名も地位も名誉もある ギルバートはテロリストと話し合う余地も無いと言う 果たしてA.Aにその言葉を逆手に取るだけの技量が無かったのか?と問われればまた疑問である そこで導き出される答えは限られてしまう それを考えるほどの軍師、戦術の術を持つ者がいなかった。のか 戦いと行動で全てをわからそうとしている。のか 己が正義。己が全てなのだ。と相手の全てを否定している。のか…だ だが、その事はA.Aクルーのみが知る事実である A.Aは宇宙へ飛び出した後、向かったのはコペルニクス オーブでの中継後、ミーア・キャンベルが身を寄せているコロニーであった その頃、アスランは薬の副作用によるものか、手足が痺れイザークに抱き付く腕にさえ 思うような力が入らなくなっていた 当然と言えば当然の結果なのだろう 薬を止めたとはいえ、副作用が出ている状態でミネルバからボルテールまでの移動 その上、ボルテールに着いた早々に兵器を停止させよ。との命令、戦闘 どんなに強く装ってみても身体は正直である 蓄積された疲れは、アスランの身体に副作用として出始め 精神、身体、共に蝕んでゆく だが、此処で止まるわけにはいかなかったのだ まだ戦争は続いている 否、戦争よりも悪い方向へと世界は進んでいる A.Aの行動と議長の手によって… そう、止まっているわけにはいかない アスランはイザークの温もりを感じながら一つの決意をした それはアスランにとって過酷な事であり 生半可な覚悟では出来ないだろう 勿論、死さえも覚悟せねばならない それは薬の副作用のみらず、世界を相手取るのだから… ラクス達の言う綺麗な世界が今の大人全てに通じる事は決してない しかし、議長の言葉に全てを委ねる事もアスランには出来なかったのだ 「イザーク…俺はやはり父上の息子。らしい…」 「アスラン…」 「納得。出来ないんだ…どちらも… キラ達の言う綺麗で、皆に夢や希望があって…戦いも無い。本当に皆が笑ってる世界 ……俺だってそうであればいい。とは思うけど…実際、今の世界の情勢、大人達の事情を見て、それが叶うと思うか…?」 「いや…人は皆、己の幸せを願っている 己の周りの人間たちの幸せを… 普通の人間が見知らぬ人間の幸せなど無条件で願える筈も無い 世界、全てが平和になればいい。そう望んでいるのは極僅かだ」 「だからと言って議長の言っている事、全てが正しいとは思えないんだ ……………議長はA.Aの撃破の命を出された そこで俺は考えたんだ…議長が何を思うのか… 何故、あの時、議長はA.Aを落とせと命令されたのか… そして俺が出せた答えは一つ。だった… 議長はA.Aが邪魔なんだ 今、世界は議長が望む世界 議長の思うがままの世界になりつつある それに波を生じさせたのがA.A 議長はA.Aが邪魔だった だとするならば議長は自分の思う通りに動かない人間を処分していくのではないか…と」 アスランは苦笑を漏らしながら「また俺の考え過ぎかもしれないけどな…」と言葉を付け加えた だが、それ以上にアスランは思うのだ ギルバートもこの終らぬ戦いに心を痛めている人間の一人なのではないか…と 終らぬ戦い 停戦要求はどれもナチュラルに都合の良いものばかりでコーディネーターには不利なもの だから考えたのではないのだろうか? 遺伝子レベルで全てが決められている世界ならば誰もが平等 誰もが傷付かず平和であるのだ。と… そして、それを望んでいるのだ 間違った方向かもしれない しかしギルバートも世界の平和を望んでいる その姿はアスランの父、パトリック・ザラの姿に重なってしまう時があるのだ 誰よりもコーディネーターの幸せを願い 願い過ぎる故に道を間違えてしまってゆく存在 それを誰にも打ち明ける事が出来ず 一人、考えてしまうのだ こうであれば戦いは起こらない こうであれば皆が平和な世界で暮らせる そう、考えてしまうのだ だが、そんな事は悲しすぎる いつかは誰にも心を打ち明ける事が出来なくなり 誰もを信用出来なくなってしまうのだ 一人だけの世界はあまりに冷たく、暗い 故にアスランは考えた 「イザーク…『ザラ』の名はプラントでどれ位の影響力を持つだろうか…」 「………………いい意味で英雄的な存在だろうな 最後までプラントの為を思い戦い抜こうとした方だ 公に口にする事は無いが前議長の名は今もプラント国民の胸の中で根付いている そして、悪い意味で破壊者 ジェネシスを使い、地球軍兵士をあっという間に消滅させ 月基地にに多大なる損害を及ぼした コーディネータからは尊敬すべき存在 ナチュラルからは憎き仇。だろうな」 「そうか、なら十分いける」 「アスラン、何を考えている? 俺の予想が正しければ、それは命を落とす危険性がある」 「イザーク…多分、予想は当たってる でも、俺は今、幸せなんだ それなのに世界は悲しみに包まれ、このまま進めば変な方向に行ってしまうのかもしれない 俺はそれを黙って見てられる程、大人しくできないんだ けど、イザーク…俺はこのままだと自分の思いを達成させる前に膝を付いてしまうかもしれない…だから」 「アスラン言った筈だ 俺はお前を裏切る事は無い お前の思うとおりにすればいい…」 さぁ、世界の修復へと向かおうか コツッコツッ…長い廊下に一人の足音が聞こえる 男はギルバート・デュランダル 皆も知っている通り、誰もが知る現、議長である この世界が緊張している最中でどこへ向かうのか… それは議長に面会を求めた人物へと会うためであった 今の現状でプラントを離れるわけには行かない。と話せば 相手の人物は「ならば私がプラントへと足を運びましょう」と言ってきたのだ 何故、こんな時期に…!!と多少、苛立つデュランダルであったが その人物の意思の変わらぬ瞳を捉えた瞬間。思ったのだ この場で断るのは簡単だ しかし、この場で断れば私が終る…と それ故、デュランダルは時間の無い最中でその人物との面会の時間を取り 今、その人物に会うべく、議長が指定した己の部屋へと向かっていたのだ デュランダルが部屋に着くと、部屋の中で待っていたのは 自分が軍へと戻した、藍色の髪。翡翠の瞳を持つ青年、アスラン・ザラであった… 「アスラン…君も分かっていると思うが今の情勢は決していいモノではない」 「えぇ。分かっています 分かっているから今日、議長に話したい事がありました」 「何かね?私も時間が無い 手短に頼むよ」 「では早速。デュランダル議長に一年の猶予を頂きに参りました」 「…手短に。とは言ったが手短過ぎて私には君が何を言いたいのか解りかねるが…?」 「申し訳ありません。では言い直しましょう デュランダル議長、私に一年。猶予を頂けませんか? 議長が何をしようとしているのか、どのような世界に導こうとしていらっしゃるのかは私には分かりません しかし、議長のやろうとしている事、一年、待って頂けないでしょうか?」 「……………アスラン、それは無理な話だ。と言ったら君はどうするのかね?」 「全てを公言致します」 「ほぉ…」 「プラントのラクス・クラインはミーア・キャンベルという別人であった事 先の大戦で我等を導いたラクス・クラインを暗殺しようとした事 先の大戦で英雄艦となったA.Aを落とせとの命令を出された事 私はプラントでは亡命した。という事になっているようですが直接的な事は言われずとも追放 そして、議会は『ザラ』の名を失くそうと私を処分しようとした事 最後の二つはデュランダル議長には直接関係の無い事ですが プラント市民の議会への信用は確実に減る事となりましょう そして、プラントは先の大戦後、最高評議会議長と国防委員長を兼任する事は禁じられた筈です 議長である筈の貴方が直々にザフトに指揮を出す。規約違反として問題ではないでしょうか? 今、不安定に揺れる世界でそれは危険な筈ですが…? ですが、デュランダル議長がこの場で私を処分する事は可能です しかし、その場合は私の代理人となる人物が全てを公言するでしょう 先ほどの言葉に付け加え、議長の元に訪問した直後に行方が分からなくなった。…と 議長は自分に刃向かう者、全てを処分する気なのかもしれない。…と そうすれば益々、信用を失う結果となりましょう それはブルーコスモスに弱点を見せる事となりませんか…?」 「アスラン。私に取引きをして来る等、やはり君はザラ議長の息子。なのだね 話を続けたまえ。何が望みだ…」 「私の望みは先ほど、言いました通り 議長のしようとなさっている事を一年。見送って頂きたい」 「その場合、私に何のメリットがある。と…? まさか、公言は無い。それだけではないだろう?」 「勿論です 一年、見送って頂き、私がメディアに出る事をお許し頂けるのであれば A.Aの暴走を止めてみせます そして叶わぬ場合は全世界がA.Aを敵視するように致しましょう 本物のラクス・クライン そして悲劇の英雄キラ・ヤマト オーブの代表カガリ・ユラ・アスハ この三名を此方に引き込む事が出来れば議長も色々と助かりましょう そして此方へ引き込む事が出来ずとも、この三名を処分する事が出来るのです そうなれば議長のしようとしていらっしゃる事も有利に運ぶのでは…?」 「成る程、悪い話ではない」 「最後にもう一つ 私に与えて下った一年で世界が一歩でも前進した場合は 無期限で議長のやろうとしている事を見送って頂きたい」 「…………………」 「世界の前進。それは世界全てが望んでいる事なのではありませんか?」 漆黒の瞳と翡翠の瞳がぶつかり 互いに瞳を逸らす事は無い 両者とも分かっているのだ 瞳を逸らせば負けなのだと 相手よりも意思が弱い事を証明してしまうのだ。と アスランは背筋に汗が流れるのを感じながらも 微動だにせず、議長の瞳を見据えた 此処で殺されてしまうのかもしれない だが、それでも自分が決めた 自分の成すべき事があるのだ もう誰も殺させはしない アスランの心にはソレだけが渦巻くのみである どんなに気丈に振舞っていようとも、薬の副作用が収まる事は無い 瞳をぶつかり合わせている今も 吐き気と頭痛、寒気、痺れが休む事無く、アスランの身体を蝕んでいた 「いいだろう。 今まで待ってきたのだ一年、それが延びようとも私には苦でもない しかし、一年。一年待って何も変わらぬ場合は即座に私の計画を実行 君には私の右腕となり、軍人として働いてもらう。それでも構わないかな…」 「はい。異論はありません」 「取引き成立。だ 君がメディアに出る事も許そう このプラント…いや、コーディネーターの中でザラ議長の存在は大きい 『ザラ』の名を今か今かと待ち望んでいる者も少なくは無いのだろうね」 議長の含みを込めた笑みに眩暈がするが アスランはそれを表に出す事は無く、議長の部屋を後にした そして、含みを込めた笑みを浮かべる議長の言葉がアスランに届く事は無い 「流石はザラ議長の息子。ザフトのエース… 私がやろうとしている事を深く分かりはしないが軍人の勘。というやつなのかな… やはり君は面白い存在だ。アスラン・ザラ…」 部屋を出た後のアスランは緊張の糸が切れたのか 人が居ないのを確認すると壁にもたれる様にしながらその場を移動し 自分を待っていてくれている人物の元へと足を進めた 恐らくは不機嫌な顔で心配してくれているだろう そう、考えると身体は辛い筈なのに足が止まる事も 床に膝を付く事も無い しかし、アスランの心は微かに揺れていた 議長に言った言葉は全てが本心というわけではない キラ・ラクス・カガリ 彼等を反逆者にしたいわけでも、政治利用したいわけでもないのだ コレはアスランにとって賭けであった キラ達がまだ少しでも自分を信用してくれているのであれば 自分の考えを読み取ってくれるかもしれない そんな儚い願い まったく虫のいい話であるとアスラン自身理解していたが 今のアスランにコレ以上の考えは思いつかなかったのだ A.Aを守りつつ、世界の修復 それは並大抵の事では実現する事は無い A.Aが議長に降伏、協力すると見せ掛け 逆に議長の立場を上手く利用する それなら降伏、協力しているばA.Aの命は保証され 逆に議長を政治的利用出来ればプラントから攻撃を仕掛ける事も無くなる それだけではなく世界は議長サイドに傾いている ならば世界を修復する為にそれを利用するのは政治的に見ても当たり前な事である だが、成功確立は五分五分 A.Aがアスランを信用せず何のコンタクトも取ってこなければA.Aに関しては即アウト 庇う事はもう出来ない 彼等の事だ。簡単に見つかるヘマも、簡単に攻撃され落とされる事も無いかとは思うが 彼等も人間。絶対ではない こんな事を考えてしまう自分は友達不幸者であり やはり政治家を親にもった息子なのだ。とアスランは自嘲の笑みを浮かべた だが、それよりも今は早く彼の元へ戻り 今後の為に身体を休めなくては…と歩くスピードを早める 今日の議長へ面会を申し入れた時にはアスランは自分一人でプラントまで来るつもりでいたのだが それを許さなかったイザークは自分も同行する。とアスランと共にプラントに来ていたのだ 議長の部屋を後にしたアスランはイザークの待つ軍施設の玄関口と言われる場所まで戻ってくると 人で溢れている今の軍施設の中でイザーク一人の存在を見つけるのは大変か…と思ったのだが 人が溢れている場所でもイザークの存在感は人一倍のものであり、アスランは直ぐに見つける事が出来た 本人には無意識なのかもしれないが、その硬質な雰囲気が一人の時でも損なわれる事は無く 周りの者達も無意識なのか、イザークの周りだけゆとりのあるスペースと化していた 「イザーク!!」 「あぁ、話は済んだのか…?」 「なんとか、な…」 「それで返答は?」 「OKだ。一年、時間を貰った メディアに顔を出す事も許された 一年もあれば十分いける」 「まったく…お前は…」 イザークが呆れた様に呟けば アスランは笑顔でそれに応えるが、やはり疲れたのだろう 顔が青褪め、身体が震えている それに気付いたイザークは回りの者達に悟られぬようにアスランを気遣いながら その場を離れ、ジュール家が所有する家へと足を急がせた 勿論であるが肌寒い所為で身体が震える訳ではない 緊張の糸が解けた所為なのだろう カタカタと震える身体は制御する事も出来ず ただ、苦痛が過ぎるのを待つしかない アスランは顔を俯かせながら震える身体を自分自身で抱き締め 少しでも震えないように。とするのだが身体の力が上手く入らない身体では 周りに余計、不審に思われてしまうのだろう それを上手く隠しながら歩くイザークの姿に付いてきてもらって良かった。と安堵の息を漏らした もし、当初の予定通りに一人でこの場に来ていたら…そう思うと気分は悪くなるばかりである 「あと、少しすればエレカを置いてある場所に着く それまでは悪いが歩いてもらうぞ」 「わか…て、る」 「此処でお前を持ち上げればかえって目立つからな」 なら、人が少なかったら持ち上げるのだろうか…?という疑問が浮かぶが 今のイザークならば遣りかねないな。と苦笑を漏らすアスランである 身体は既に震えでは無く、手足は氷のように冷たい感覚に襲われていた 一番簡単に表現するならば、手は氷を握り締めている様であり、足は氷の上を歩いている様だ プラントは確かに、四季を感じられるように設定されているが そこまで寒いと感じたり、暑いと感じられる事はない 故にプラントで手足が凍りのように冷たくなるなど有り得ない筈なのだが 今のアスランは確かに手足の冷たさを感じているのだ 手足の痺れ、頭痛、吐き気、倦怠感、幻聴、幻覚。 上記に上げられたのはドラッグ使用者が主に襲われる現象なのだが 確か手足の冷たいと感じる事は無かった筈である それなのに寒いと、冷たいと感じる これも幻覚症状の一種なのだろうか…?と考えるのだが 今はそれよりも身体を休めたい。という感情の方が勝り 考えるよりも先に身体が休める場所へ…と求めていた 「アスラン、コレからジュールが所有する家へ向かうが他に行って置きたい場所でもあるか…?」 「い、や…今は少し身体を休めたい…ニコル達の墓にも行きたい…とは思うんだが…」 「全てがひと段落してから。後は少しでもお前の症状が回復してから。だな…」 「あぁ、すまない…」 「お前の事であれば既に慣れている 俺には変に気を使う必要も無い」 「そうだな…」 これからは今まで以上に気を張り詰めていなくてはならない ならば自分の傍にいる時だけでも緊張の糸を緩めて欲しいと思うのだ アスランにとって自分の存在は自惚れなどでは無く 必要とされている事は理解している しかし、どこかまだ気を遣われている気がしてならないのだ だが、今はまだ自分の戻ってきただけ良しとしよう そう思いながらイザークはエレカにアスランを乗り込ませジュール所有の家へと走らせた さぁ、世界の修復の下準備は完了した しかしアスラン達が出来るのはあくまで世界修復の後押しのみ 世界の良しも悪いも全ては世界が決めるのだ 某日、アスラン・ザラはメディアの前に姿を現していた その姿はザフトの赤服を纏い 凛。と背筋を伸ばし、自分の出番を待ち構えていた その傍らでは白服を守っているイザーク・ジュールの姿や黒服、議長の姿もあり 今回、放送される内容を知らないスタッフでさえも重要な内容なのか…と普段以上の緊張が走っていた 緊張した空気が流れる中で 出番が来たのかスタッフの一人がカメラには写らない位置で合図を送り アスランも合図から一拍、置いて言葉を口にした 「皆様、混乱の最中の発言をお許し下さい この映像は全メディアに対し、放送しております 私は前議長「パトリック・ザラ」の息子「アスラン・ザラ」です。 既にご存じの方も大勢いるかと思いますが月基地からの攻撃により一般プラントが破壊されてしまいました。 皆様の気持ちを思えば、私の口より「相手を憎むな」とは到底、言える立場では無く 逆に守りきれなかった事に対し、深くお詫びせねばなりません。 今はミネルバの活躍により月基地及びブルーコスモス頭首を撃破いたしました。 これ以降の一般プラントに対しての攻撃は無いものと判断して良いかと思います。 これは以前も議長の口より発言されたかと思いますが この戦いは既にナチュラル。コーディネータの戦いではなく 世界の有り方についての戦いとなっています。 誰が悪い。誰が正しい。ではなく 今一度、皆様の世界の有り方を考えては頂けないでしょうか。 それが議長の仰る世界の修復の第一歩となりましょう 私は母を『血のバレンタイン』で亡くし 父も『先の大戦』で亡くし これまではコーディネーター。ナチュラル。両方の混乱を避けるべく 身と名を隠してまいりましたが、今のこの情勢でそんな事を言っていられる立場でもありません この度は議長から許しを頂き、皆様に姿を見せる事が叶いました。 ミネルバの活躍によりブルーコスモスの頭首が亡くなった今 過去を受け入れ、亡くなった沢山の者達の為に第一歩を踏み出す時なのではないでしょうか? そして此処からは私信。と取って頂いて構いません 本来であればこの様な形を取りたくはなかったのですが 今の情勢で彼等に直接コンタクトする方法がありません。 このメディアをご覧の皆様はどうか、この戦いを一日でも早く終らせる為とご理解下さい。 それでは… A.Aへ要求する 今、貴殿等のしている行動は世界を混乱へと導く行為でしか無く、戦いを長引かせ、刺激しているに過ぎない。 このままの今の行動を続けるつもりならば我らは貴殿等をテロリスト。と判断せざる得ない。 だが貴殿等は先の戦いで停戦へと導いた英雄でもあり我々としては穏便に事を済ませたいと思っている。 それ故、議会はA.Aに二つの選択肢を用意した 一つは我らにコンタクトを取り、話し合いの場を持って頂く事 勿論、話し合いの席で我等が貴殿等に攻撃を仕掛ける事は無い 話が決裂しようとも貴殿等が無事に帰す事を約束しよう 二つ目はこのままの行動を続け、テロリストと判断されるか…である もし、テロリスト。と判断されれば我々は世界に混乱を招く存在であるとして 全世界に向けてA.Aへの警戒態勢の伝達。捕獲、刑執行しなくてはならない 期限は本日より3日。 それ以上はプラントだけではなく世界の危険も考慮した上で待つ事は出来ない。 以上だ。」 アスランの最後の言葉の後ににスタッフの口からのOKの言葉が出ると 軽く息を吐き、アスランは緊張の糸を少しだけ緩めたように微かな笑みを浮かべる 議長に挨拶を済ませアスラン達は控え室へと戻るのだが 今のアスランは自分の身体を支える気力も無く、イザークに身体を支えられながら椅子へと座った 慣れない場所での発言は予想以上にアスランに緊張感とプレッシャーを与え身体を蝕んでいく 公の場所に出るのは初めてでは無いが、流石にメディアへの出演は初めてである それに加え、アスランの言葉をA.Aのクルー達が逆の理解 『敵』としての判断が下されればアスランの言葉通りA.Aは追放艦となり 常に命を狙われる存在となる そして、撃破されれば彼等はアスランを怨みながら死に逝くのだろうか… そう考えれば考える程に、もっと良い作戦は無かったか。と思考を巡らせてみるが 今までのアスランの経験上では一つの答えしか出てはこない リスク無しで世界を動かせるわけが無い 勿論、A.Aを世間に晒す事がアスランのリスク全てではない 自分自身。そして自分に関わる者全ての命さえも 一つ間違えば失われてしまう だが、世界を正す 世界を直すという事はそれだけのリスクが要求されるのだ 生半可な気持ちでは動かせない 生易しい覚悟でも動かせない 世界を動かす それにはそれ相応の代価が必要なのだ それに緊張するな。というのが無理な話である 自分で言い出した事とは言え、一年という短い期間で結果を出さなくてはならない それが今日、始まったのだ だが、世界が前へ前進するには、まだまだ何もかもが足りない 幾らでも時間は惜しい。けれど身体はそれに全て応えることは無く 素早く動く事もできない 身から出た錆び 自業自得 そればかりがアスランの脳裏を掠め苛立つばかりだ だが、苛立ち、常に崩れ落ちてしまいそうなアスランを支えてくれているのはイザークであった アスランは極度の緊張とプレッシャーから解放され、気が抜けた所為か 額には汗を滲ませ、息が荒くなっている そんなアスランに落ち着かせようとイザークは備え付けのミネラルウォーターをコップに注ぎ手渡すのだが 素直に受け取ろうとした手はカタカタと震えており 水を受け取る寸前に気が付いたアスランが咄嗟にもう片方の手で震える手を隠すように握るが イザークにそんな誤魔化しが聞く筈も無く 眉間に皺を寄せ、汗の所為で頬にも張り付いている髪を払うように アスランの頬へと触れた 他の人間よりも体温の低い手は今のアスランには心地良く 全てをイザークへと預けるように瞳を閉じ その表情は先程よりも幾分、穏やかなものへと変化していた 「すまない…」 「気にするな。と常に言っている それよりも身体が少しでも落ち着いたら家へ帰るぞ その方がお前もいいだろう」 「あぁ……ありがとう…」 「謝られるよりはマシだな」 あぁ、彼は何故、苛立ちを直ぐに鎮めてくれる術を持っているのだろう 彼がこんなにまで自分を理解し、苛立ちを鎮める術を持っていなければ もっと自由だっただろうに こんなにも縋る事はなかっただろうに… だが、手離せないのは事実 一人で立ち直れないのも事実 一人で立ち続ける事が出来ないのも事実 そして、世界を動かす勇気をくれたのも、又、事実である 世界を動かすのは全て自分の為だという事は恐らくイザークでも知らないのだろう 彼と過ごす平和な世界が見たかった 穏やかな時間に包まれ、静かに過ごし 喧嘩して、泣いて、怒って そして、また笑う そんな何でもない平和な世界を彼と見て、過ごしたい その想いがイザークと離れている間に新たに芽生えた感情 イザークと離れていた時は辛く、苦しく、悲しい。負の感情が勝っていた だが、そんな時でも縋っていたのは何でもないイザークと交わした言葉 イザークの言葉がアスランを生かし、今に至らした それを依存と呼ぶ者もいるだろう だが、それでも構わないと思うのだ 幸せへと、平和へと進む勇気が生まれた それは紛れもない事実なのだがら… それから一年近くが経ち A.Aからの連絡は無く、ミーア・キャンベルの所在は不明 捜索班の話によれば、殺されたか、何者かに囚われた可能性がある。という事であった 結局、彼からは現在、反逆者として追われる身となり あの出口が見えない場所に立たされている少女さえも救えずにいた もし、彼等が殺されてしまった時は自分も共に…と考え 一向に進まない情勢に諦めかけていたアスランだが そんな時はイザークが他者が聞けば厳しい言葉に聞こえるような言葉でアスランを支え 少しずつ前へと、修復へと向かわせようとしていた そして約束の一年が経とうとした時、一つの朗報が入ってきたのだ 地球軍、最高幹部。又、中立国代表等からの連絡が入り プラント。コーディネータの独立許可 そして、これからは干渉し過ぎず、互い手を取り合う同盟を求めてきたらしいのだ いきなりの急展開にアスランの思考は付いてゆかず やっと理解した身体は力が抜け、倒れるようにその場に膝を付いた 「アスラン!!」 「だ、大丈夫。だ…それより、本当に…地球連合軍や…中立国が動いた。のか…」 「あぁ。良くやった。これで一歩前進 議長との取引きは成立だ」 修復へ向けようやく出だした第一歩 アスランは涙を堪える事が出来なかったが、それは以前のような負の涙ではない 周りの者達も釣られるように涙を流し 嗚咽を漏らす者さえも存在していた そう、誰もが望んでいた世界にようやく動き出したのだ それを嬉しいと感じない者はいないだろう 議長とて、ようやく進みだした世界で新たに計画を進めるような無謀な事はしない筈である アスランはイザークと離れてから見せる事の無かった綺麗で穏やかな笑みをイザークへと向け言葉を放つ 「これで…喜んでくれる、よな…? これがニコルやミゲル、ハイネや死んでいった人達が望んでいた未来… 望まれていた世界へ進み始めた…よな…? キラ…達だっていつか…いつか…」 「世界が動き出したんだ 最近は動きを見せないA.Aへ感心を向けている暇は無いだろう 奴等も平和へ進みだした世界に無駄に攻撃を仕掛けてくる筈もない 世界が本当に安定して、奴等が危険因子ではない。と判断されれば命令もいずれは解除される その、いずれは…は俺にはハッキリとは言えんがな… それに今は報告しに行かねばならんな ニコルやミゲル達…そしてお前のご両親にも…」 「……っっ」 勿論、これで終わりではない まだ第一歩を進み出したにしか過ぎない 世界が安定するにはまだまだ時間を要するのだ それを担うのは、これからを生きる者達であり これから生を受ける者達である さぁ、第一歩を世界が進み出した 後は、その歩を望まれる世界へと少しづつでも進ませる事だ 尚、これは余談であるが、アスラン、イザーク両名はその功績から議会へと誘われるが アスランは体調や今まで自分がしてきた事を考え辞退 イザークはそれを引き受け、今では議会の一員としてアスランを養い、連れまわしながら世界を動き回っているらしい… のちにジュール議員と呼ばれるようになったイザークは 世界が前進するに従い、動きの見せないA.Aに対し 動きがあるまでA.Aの件の凍結案を出し 持ち前の理論でそれに賛同させたそうだ END 勿論これで全てが終ったわけではない しかし、これは大切な第一歩 自分を傷付け 周りが見えず 愚かな行為をしていた だが、それは生に縋っていたから 貪欲なまでに生きたいと願ったから そして世界を動かす覚悟が出来たのは 自分に欲求が生まれたから 彼と平和な世界が見たい 彼と穏やかで少し五月蝿い生活を送りたい。と 人間という生き物は 愚かで物欲的、儚い存在であるが 一つの勇気、希望、願いを持てれば 誰かを思い遣れる心を持ち 自分だけではなく、身近な人だけでも他人の平和を願える 愚かで傲慢な生き物が人間であるが たった少しのキッカケでそれは大きく変わるものである |