悟らせない自信はあった 誰にも悟らせはしない 心配を掛けたくない それが自分にも周りの人間の為にもいいと思っていた そのほうが互いにラクだと 『特別』 時期は戦争も終結を向かえ 今は―過激派―と呼ばれる者が起こす問題を処理するばかりか・・・ 問題は他にも山積みだったが薄い氷のような平和 僅かな揺るぎでも割れてしまうかもしれない平和 そんな平和を護る為には―過激派―と呼ばれる者を拘束し出来うるなら問題を未然に防ぐ それが今現在の最優先事項だろう そんな仕事を元ザフト軍エースパイロットであり またザフトを裏切った悲しき英雄ーアスラン・ザラーも参加していた その参加しているメンバーには ―アスラン・ザラ―の元同僚―イザーク・ジュール―や―ディアッカ・エルスマン―元地球軍であり―アスラン・ザラ―の幼馴染である―キラ・ヤマト―の姿も見えた 表面上は何の問題もなく過ごしていたが 内面はやはりそう上手くは行かず陰口を言う輩もいる ターゲットは一人 亡き―パトリック・ザラ―の一人息子である―アスラン・ザラ―だ 己の事は棚にあげ―不安―疑心―を取り除き、己の―精神安定―の為に誰かを見下したいのだろう しかし彼―パトリック・ザラ―が最後まで支持を受けていたという事は彼の考えに多くの者は共感を覚えていたに違いない 血のバレンタイン―ユニウス・セブンの悲劇―議員の中でこの痛みを分かるのは彼だけだからだろう 考え、同情、又は痛みを想像するのは容易いだろう しかしその痛みは考えるよりも遥かに深く痛いものなのだ パトリックはただ護りたいという想いが強すぎてしまっただけなのだろう だが多くの者はそんな想いなどわかりはしない 人の心は半透明なものわかるほうがおかしいか そして中傷を受けるアスランは決まって言うのだ 「大丈夫だから」 と 微笑を浮かべながら優しげにそう言われてしまえば言い返す事など出来ないのかもしれない 大抵の者は 「そう?ならいいけど・・・」 で、終らせてしまうのだ しかし本当は大丈夫などではなかったのだ 戦後の処理に追われ己の体調など二の次にしていたアスラン 中傷を受けるたびに掛かるストレスと睡眠不足が続く日々 体調が優れないなど彼自身、とっくにわかっていのだろうが周囲には決して悟らせはしなかった ―己の体調管理―それは軍人なら当たり前にしなければならないこと それを怠っていたのだ 己の非であって言い訳の余地もない 「大丈夫だから」 いつからそれはアスランの口癖になってしまっていたのかもしれない いつも微笑み―大丈夫―と告げる言葉 仕事もしっかりとこなし微笑を浮かべるアスラン 誰が体調不良に気付くだろうか―? 「・・・・オイ」 「・・・・イザーク」 新しく与えられた戦艦の通路で彼―イザーク・ジュール―に声を掛けられアスランは普段と同じように装いイザークに接した 気付かれないように 「・・・・・・」 「・・・何の用だ?特別な用事でないなら後にしてもらいたいのだが・・・」 真っ直ぐ見つめてくる瞳から逃れるように手に持っていた書類に視線を落とし声を掛けておいて用件を話し出そうしないイザークに居心地が悪くなりアスランは急かすようにつなぎを促した 曇りのないアイスブルーの瞳 ヒステリックに叫んでいる時とは違い何もかを見透かされてしまいそうな瞳をしている ただ静かに真実を見透かすように 「・・・イザー「貴様は馬鹿か?」 「・・・っな?!」 「もう一度、言ってやる。貴様は馬鹿か?」 「声を掛けてきたと思ったら用件はそれか?!そんなくだらない事の為に呼び止めたのか??」 アスランはそれだけ言うと溜め息を一つ吐き付き合っていられないと言わんばかりにその場を去ろうとした が それはイザークがアスランの腕を掴んだ事でその場を離れる事は許されはしなかった 呆れているのはアスランの筈なのだが今度はイザークが呆れたように溜め息を吐く それにムッとしたのかアスランが何か一言、文句を言おうとしたがイザークは無言のまま歩を進めそのまま通路を進んでいき文句を言おうともそれを今、聞き入れるとは思えない イザークがアスランの腕を掴み通路を進んでいく ザフトにいたことのない人間からしてみたらそれは異様とも言える光景かもしれない しかし彼等の同僚であり傍で見てきたディアッカにしてみたらそれは何度も見てきた光景だ 「どちらも素直じゃない」 ディアッカから言わせればそれだけで済まされてしまうようだ 本音を言ってしまえば下手に関わると後でイザークが怖いのだろうが イザークが無言のままアスランを連れて来たのはアスランに与えられた部屋だった その部屋はあまり生活感が無く生活に必要な物だけを置いているだけの印象を受ける アスランに言わせれば戦艦の部屋などただ寝泊りするだけの空間で必要最低限な物があればいいのだろう 「・・・イザーク、一体何なんだ?いい加減教えてくれてもいいだろう?」 イザークはアスランを見ると不機嫌そうに眉を寄せ また溜め息を吐くとアスランを投げ捨てるようにベットへ寝かせた スプリングのお陰で痛みはないがどうしても息を一瞬詰まらせてしまう イザークの行動がわからないアスランは怒る事も忘れベット寝転んだままただ戸惑いの表情しか出来ない それもそうだろう声を掛けられたと思ったらいきなり「馬鹿」と言われ無言のまま自分の部屋に連れて来られたのだから 「・・・体調が優れないんだろう?」 「・・・・・え?」 「顔色が悪いしフラフラ歩いてたら誰にだってわかるだろう」 キッパリと言い放つ彼に何故か笑いがこみ上げてくる ―誰にでも―とイザークは言うが実際は誰もアスランの体調不良など気付いてはいなかったのだ 彼以外は誰も― そういえばアカデミーの射撃の最終テストでアスランの風邪に気付いたのはイザークだけだったか? 懐かしい出来事を思い出しこそぐったい気持ちにアスランは自然と微笑を浮かべた あの時も誰にも気付かせないようにしていただろうか 「・・・何を笑っている?気味悪い」 「いや、すまない・・・ただあの時を思い出して」 「あの時?」 不機嫌そうな表情はそのままにイザークはアスランがさす―あの時―を何かと思考を巡らしながら思う出そうとしている 全然、思い当たらないわけではない しかしそれを認め口に出す事は何故か躊躇してしまう 「―あの時―アカデミーの射撃での最終テストの時もオレの体調不良に気付いたのはイザークだけだったよ」 「・・・・も?」 「も。今回もオレの体調不良に気付いたのはイザークだけだよ」 「・・・・・・そうか」 「・・・なんでお前にだけはバレるんだろうな?」 ―沈黙― 「・・・そんなの決まっているだろう」 「・・・何で?」 天然なのか計算なのかわからないその態度にイザークは視線を外すと軽く舌打ちをし寝転がっているアスランの横に腰を下ろした 互いの吐息が分かる程に顔を近付け その後にする事は鈍いアスランにでもわかるのだろう 頬を微かに朱に染めイザークを曇りのない瞳で見つめる 綺麗だと思った 男に綺麗というのはあまり褒め言葉にはならないかもしれないが―綺麗―それが正直な感想だった 真っ直ぐなプラチナブロンドの髪 曇りのないアイスブルーの瞳 己よりも白い肌 整った顔のパーツ 思考が違う方向に飛んでいたアスランの意識を引き戻したのはイザークから発せられた言葉 「・・・・・互いに特別だからだろう・・・?」 正直、テレ臭い言葉だとは思った だがそれが事実なのだから言い返す言葉などみつからない いや、見つける必要もないか― ゆっくりと瞳を閉じ 唇が重ねられる その時は時間の流れも忘れ ただ互いの唇の温もりに溺れた 吐息を奪うように 舌を絡ませながら 頬を伝う溢れた唾液も気にせずに ただ貪るように求めた 久しぶりの温もりに互いに余裕はなく 着ていた軍服は破れるのではないかというくらいに乱暴に剥ぎ取り眩しい位に白い肌には紅い刻印をつけた 同じように血を浴びていたのにそれを感じさせない儚さ なにもかもを一人で抱え込みいつか壊れてしまうのではないかと思わせるアスランにイザークは最後は己が傍にいたいと思っていた 近すぎず遠すぎる距離で見守り続け 壊れ、倒れてしまいそうな時だけ甘やかしてやる 依存したのはどっちからか いや、それは互いが互いに依存しているのかもしれない 愛してるなどという言葉で納まれば何度でも言ってやろう しかし、納まらないからこそあまり使いたいとは思わない たまに・・・そう、倒れそうになっている時 弱って安心したい言葉が欲しい時だけ言ってやろう 「愛してる・・・俺だけはお前の味方でいてやる」 「・・・っイザ、ク・・・」 熱を解放し目覚めたらまた色んな事が始まる 傷付いて倒れそうなら俺が支えてやる 嫌なものを吐き出したいなら俺が聞いてやろう ・・・だから・・・ 何故だろう? 彼には何時もバレてしまう どんなに隠しても 見抜かれてしまう 自分でも気付かない内に彼の前だけで弱さを見せてしまっているのだろうか? 他の人には決して見せはしないのに END |